研究課題/領域番号 |
23720203
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
白井 聡子 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (70372555)
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キーワード | 言語学 / 危機・少数言語 / 研究者交流(中国) / フィールドワーク / 地域言語学 / 川西民族走廊 / チベット=ビルマ語派 / チァン語支 |
研究概要 |
中国四川省成都市において、西南民族大学チベット学科の協力を得ながら、約2週間の現地調査を行った。スタウ語マズル方言の基礎語彙調査、ギャロン語ヨチ方言の語彙および文法の調査、ダパ語ダト方言およびメト方言の補充的調査を行い、音声データを含む一次資料を収集した。これらの資料は電子ファイル化し、音声ファイルとともに他の研究者にも提供可能な形とした。 現地調査で収集したデータの分析を進め、地域特徴の実態の解明に取り組んだ。スタウ語マズル方言については、今年度新たに調査を開始した方言であるため、音韻分析に着手した。ギャロン語ヨチ方言については、特に、動詞形態法の分析を進め、自動詞と他動詞のセットをリスト化した。この動詞対リストのうち主なものは、国立国語研究所共同研究プロジェクトにも提供し、公開した。 また、他の研究者との討議や、学会資料、図書など二次的資料の収集も行い、昨年度までに収集した資料も含めてダパ語の分析を進めた。ダパ語の文の構造について全体像を整理し、ダパ語の文が動詞述語文と名詞述語文の2つに大きく分けられることを明らかにすることができた。また、ダパ語に人魚構文(体言締め文とも呼ばれる。形式上は[節][名詞][コピュラ]のように名詞修飾節を述部とするコピュラ文となっているが、文の主語と[名詞]が同一指示ではなく、[節]の部分が意味の中心となる)が存在すること、その構文を形成する名詞が4つあることを示し、それぞれの構造や意味の特徴を分析した。これらの成果は論文として発表した。さらに、ダパ語の節連結について論文執筆を進めているほか、これまでの研究で得た成果について、アルバイトを依頼して整理・電子データ化し、ウェブサイト開設の準備を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
言語調査による資料収集は概ね順調に進展している。当初、甘孜蔵族自治州ないしアバ蔵族羌族自治州における現地調査を計画していたが、現地情勢の影響で外国人の入境が禁止されていたため、調査地を変更して、成都市において、西南民族大学の研究者らの協力 を得ながら調査を実施した。これによって、十分な調査を行うことができた。 地域特徴の現状の解明についても、概ね順調に進展している。平成24年度は、地域的観点からの研究成果こそ発表できなかったものの、個別言語の特徴の分析と記述を進め、動詞形態法や文の特徴に関する地域特徴解明に向けての基盤作りを行うことができた。 研究討議および成果発表については、やや計画よりも遅れている。まず、ウェブサイトの開設が遅れている点である。データ入力等の準備はある程度進めたものの、所属先変更に伴い、公開するためのサーバ等に関する手続きが間に合わず、平成24年度内に開設することができなかった。また、当初、国際会議における発表を予定しており、発表要旨も採択されていたものの、急な事情(近親者の死去)により参加をキャンセルせざるを得なかった。一方で、対象地域の個別言語の記述研究を行った論文2編を発表できた。 以上のことから、当初の計画に比べると部分的にやや遅れている面があるものの、全体としてはそれほど大きな影響はないと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
対象地域にはいまだ詳細な記述が行われていない言語/方言が多数存在するため、引き続き現地調査を実施する。対象言語については、研究計画執行上の重要性と現地情勢に鑑み、最初に、ギャロン語ヨチ方言、スタウ語マズル方言の調査を進める。このほか、ダパ語メト方言/ダメ方言/ダト方言、スタウ語ゲシ方言、ギャロン語ボラ方言に関して補充的調査を行うほか、記述が進んでいないクイチョン語、チョユ語について調査の可能性を探る。調査は、インタビュー調査を中心とし、語彙、文法、テクストの資料収集を行う。録音・撮影を含む記録と、個別言語の分析・記述を並行して進める。 研究討議、関連図書等の二次資料収集により、現地調査で収集した資料と周辺言語を対照し、また、言語学諸理論・諸現象に照らして地域特徴の検討を進める。特に、節連結、自他動詞の特徴、名詞的形式の用法の特徴、視点関連表現など、これまで個別言語の記述の中で明らかにしてきた諸現象の相関を含む統合的な特徴について考察を進める。さらに、四川省西部地域におけるこれらの特徴の分布状況を示し、地域特徴の現状を総合的に明らかにする。その上で、歴史言語学的視点と総合して地域特徴の形成過程を解明する。 以上の研究で得られる個別言語の一次資料および研究成果について、アルバイトに整理を依頼し、電子データ化することで、研究協力者との共有や過去の資料との対象が容易に行えるようにするほか、ウェブサイト等で公開可能な形に整理する。
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次年度の研究費の使用計画 |
現地調査を実施し、音声・映像を含む一次資料を収集する。主たる対象とするのは、スタウ語マズル方言およびギャロン語ヨチ方言で、ダパ語についても補充的調査を行う。また、西南民族大学との協力により、未着手のクイチョン語、チョユ語についても協力者を探す。収集した資料は電子データ化して整理する。 調査によって得た資料を基に個別言語の記述を進めると共に、平成24年度までに収集した資料、および、関連資料と対照を行い、地域特徴の解明を進める。特に、動詞、従属節に関して特徴を分析し、近隣言語における特徴の分布状況を検討して、地域特徴を明ら かにする。 これらの研究で得られた成果について、内外の学会で発表して研究討議を進め、論文にまとめて出版する。さらに、ウェブサイトを開設して広く一般に公開する。そのため、アルバイトを雇用してデータ入力及びウェブサイトへの公開準備作業を依頼する。 なお、平成24年度は、国際会議発表に関する予定変更や、ウェブサイト開設の遅れから、当初計画していた英文校閲を行わず、校閲料分の繰越金が生じた。そこで、平成25年度は、前年度に実施できなかった成果公開分も併せて、最新の成果を広く公開するために英文校閲を依頼し、繰り越し分の予算を使用する。
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