研究課題/領域番号 |
23720209
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研究機関 | 神戸市外国語大学 |
研究代表者 |
林 範彦 神戸市外国語大学, 外国語学部, 准教授 (40453146)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 中国雲南省 / ミャンマー連邦北部 / ラオス北部 / チベット・ビルマ諸語 / タイ・カダイ諸語 / モン・クメール諸語 / 東南アジア地域言語学 / 記述言語学 |
研究概要 |
平成23年度(2011年度)の研究実績は海外における現地調査および研究発表に分けられる。以下、それぞれについて概要を示す。(1) 海外における現地調査 2回実施した。中国雲南省(2011年12月)とミャンマー連邦(2012年3月)である。中国雲南省では雲南民族博物館および西雙版納州民族宗教局の協力の下、西雙版納州にチノ語補遠方言およびゲランホ・ハニ語方言の現地調査を行った。チノ語補遠方言は基礎文例および補充文例について約650例、ゲランホ・ハニ語については補充語彙500例および基礎文例1000例を採集した。言語データについては今後更に分析をすすめる。チノ語補遠方言の地域では現地の結婚式の様子や歌謡など、ゲランホ・ハニ族の地域でも建築の様子や民族衣装の作成など文化的事象についても記録することができた。またミャンマー連邦ではシャン州の少数民族地域を訪問し、アカ・アク・ラフ・ワ・エン・パラウン・パオの各村落にてそれぞれ約300から400項目程度(基礎語彙が中心)のデータを録音・採集した。(2) 研究発表 口頭発表を2回、研究論文を1本発表した。口頭発表は日本中国語学会全国大会シンポジウムにおいて進行持続相の問題に対するチノ語および一般言語学的見地からのコメントと、京都大学iCems Complex1で行われた国際セミナーにおける歴史言語学の方法に関する紹介である。いずれも本研究と間接的にのみ関連しているので、次年度はより直接的な成果を公表したいと考えている。また研究論文として「条件節・理由節・時点節の連続性について」チノ語悠楽方言のデータから検討を加えたものを発表した。チノ語悠楽方言の個別的な文法現象を取り扱っているが、今後周辺諸言語の記述研究にも十分示唆的な現象も存在する。引き続き研究を推進していきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度は代表者の勤務する大学で第17回国際ヒマラヤ言語学シンポジウムが開催され、組織委員会内の事務局長的な役割を果たしていたため、特に当該年度前期はその業務に追われて十分な調査・研究する時間が取れなかった。しかし、12月と3月に中国雲南省とミャンマー・シャン州を訪問し、前者ではチノ語補遠方言・ゲランホハニ語のデータを、後者ではアカ語・パラウン語をはじめ7種の言語データを得ることができ、その点においては前半の遅れを十分取り戻すことができたと考えている。 また研究発表についても特に学内業務が忙しかったため、本研究とは間接的な関連性しか持たない部分しか公表できなかった。しかし、平成24年度以降で公表するための語彙・文例データ整理や分析に年度後半集中することができた。よって当初の計画に十分近づけていると考えて良い。
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今後の研究の推進方策 |
今後はチノ語補遠方言・ハニ語格朗和方言・ラフ語南郎河方言の基礎データのさらなる収集と自然発話データの補充的な収集に務める。これらの整理・分析を進め、まずはこの3言語の概観がつかめるような総合的なデータ集の作成を目指す。 またこれまで代表者が中心に進めてきたチノ語悠楽方言の文法との対照を進め、上記3言語の文法現象の類型論的および東南アジア地域言語学的特徴の解明を目指していく。具体的には名詞句構造・動詞構造・存在動詞・コピュラ・ヴォイス交替・関係節・複文構造の各問題を検討していく。 更に平成23年度末に行ったビルマ・シャン州の調査で得たアカ語・アク語・ラフ語などの資料とも比較し、これらの言語との歴史的な関係についても分析を進める。平成24年度および平成25年度には更にラオス・ルアンパバーン、ルアンナムター、ポンサリの各地区を訪問し、チベット・ビルマ系、タイ・カダイ系、モン・クメール系の各言語の状況を把握し、上記3言語との歴史的な関係および民族の動態に関する考察を進める予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
チノ語補遠方言・ハニ語格朗和方言の文法現象について作例データ・自然発話データを補充的に収集する。文法現象については、存在構文・ヴォイスの区別・関係節・条件節等を中心に集中的に収集を図る。ラフ語南郎河方言については基礎文例データの収集を行い、整理・分析を開始する。 上記3言語の現地調査によった収集データを整理し、音韻・語彙の基礎的情報を盛り込んだ電子データベースの基盤についてpdic等を利用しながら構築する。2000語程度の語彙を英語・日本語・漢語の訳語を付し、相互に検索可能なシステムとなるよう配慮する。 平成23年度に学内業務で行えなかった国際会議での発表を実施する。5月末にフランス・アゲで開催される東南アジア言語学会議、および10月に開催される国際シナ・チベット言語学会議で研究発表を行う。また6月には東京外国語大学で行われる日本言語学会第144回大会でも研究発表を行う予定である。
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