研究課題/領域番号 |
23720217
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研究機関 | 福井県立大学 |
研究代表者 |
森 英樹 福井県立大学, 学術教養センター, 講師 (20534671)
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キーワード | 意味変化 |
研究概要 |
平成24年度の研究計画は、理論的枠組を提示した上で、日本語と英語を対照させながら妥当性を検証することであった。具体的な研究成果としては、まず、日本語の否定命令文の歴史的変遷に関する論文を発表した。その中で、古代から現代に至る日本語の否定命令表現に関する先行研究を踏まえながら、「な+動詞+そ」と「動詞+な」という形式のうち、後者の形式に一元化される経緯を記述するとともに、それが英語等の他言語の否定表現の変遷と同様であることを示すことができた。これで、日本語否定命令文の変化は一般的傾向に沿っていることが明らかになったことになる。次に、前年度のThe 21st Japanese/Korean Linguistics Conferenceで発表したものを修正し、語彙的視点と構文的視点を組み合わせた意味変化のパターンに基づいて、形式と意味が一致しない表現について日本語と英語の対照分析を行った。この考察を通して、「そっちのけ」「もってこい」「いわば」「なこそ」等、これまであまり注目されなかった定形表現を文法化・語彙化の観点から統一的に扱えるようになったと思われる。また、「構文化」という文法化理論における最近の動向を踏まえつつ、両視点で意味変化を捉える本提案が、共時的な構文文法と通時的な文法化・語彙化研究をつなぐ役割を果たせる可能性を示した。最後に、日本語の命令形が条件の解釈を示す例として、「Vてみろ」形式を持つ命令文について共時的・通時的考察を試み、条件解釈が生じる理由と他の類似表現との違いを明確にした。条件の意味のみを持つ「Vてみろ」条件命令文は、文法化が進んで、後件とともに全体として副動詞構文であることを提案し、この再分析構造が他にはない条件解釈の基盤であることを示した。これよって、「Vてみろ」条件命令文の特異性とともに類似表現とその差異を理論的に説明できるようになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
学会発表をする機会はなかったものの、前年度の成果を踏まえた各種論文の完成度が高まり、その意味ではほぼ当初の目標を達成できたと考えている。具体的には、日本語と英語を対照させた否定命令文の歴史的変遷についての論文を仕上げることができた。また、前年度The 21st Japanese/Korean Linguistics Conferenceで発表した日本語の命令形表現に関して、語彙的視点と構文的視点に基づいて意味変化のメカニズムを明らかにしようとした論文も現在、学術雑誌に投稿中である。そして、日本語の条件命令文「Vてみろ」についても、学会誌への投稿が終わり、現在修正中である。当初の理論的枠組の全体像が形成されつつあり、今年度は、より多くの言語現象によって妥当性の検証をすることになる。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度の研究計画としては、これまでの理論的枠組みの応用可能性を、日本語、英語、そして韓国語や中国語等、より多くの言語を利用して検証する一方、枠組みそのものを精緻化していく予定である。これまで理論構築に傾倒してきたため、日本語と英語以外の言語の調査・分析がやや手薄になってきた。ただ、必要な文献は揃いつつあるので、まずは文献調査から開始し、関連学会への参加、そして、目標言語の基本構造を理解した上で実際のデータ収集と分析を行っていくつもりである。
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次年度の研究費の使用計画 |
購入予定だった書籍が品切れや絶版で購入できなかったり、またペーパーバック版が利用できたりしたので、平成24年度使用予定の研究費に余りが生じた。余り額は約7万円で、計画内容を大幅に変更する必要はないと考えている。具体的な使用計画としては、57万円のうち、設備備品費(意味論、歴史言語学関連図書、辞書)35万円、消耗品費2万円、旅費(学会参加、資料収集)20万円を予定している。
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