最終年度の成果は大きく4つである。まず、高橋英光氏のA cognitive Linguistic Analysis of the English Imperativeの書評をEnglish Linguisticsで行った(Mori 2013)。この中で、最新の命令文研究の動向を整理し、命令文研究における今後の課題を明らかにした。2点目は、『言語研究』の論文(森 2014)として、「Vてみろ」条件命令文のモダリティと再分析構造を共時的・通時的視点からまとめ、当該構文が副動詞構文として文法化している可能性を示した。3点目は、日本語否定命令文における否定辞の研究(森 2013)を発展させ、否定命令文の日英対照研究を開始した。これは『大庭幸男教授退職記念論文集』に所収予定である。具体的には、否定命令文に現れる日本語「な」と英語don’tの構造的相違として、前者は後者に比べて再分析されやすい構造であることを歴史的な観点から提案した。最後に、学会発表(Mori 2014)で、授与動詞「くれる」に着目し、日本語依頼表現「Vてくれ」の文法化の過程を探った。日本文化特有の「恩」の概念を考慮し、文法化研究における社会文化的要因の必要性を論じた。 一方で、研究開始当初の計画を踏まえると、意味変化理論のさらなる精緻化と対照研究の充実が必要である。意味変化における語彙的視点と構文的視点の区別は、学会発表のMori (2011)に、「Vてみろ」条件命令文の副動詞構文への文法化の事例研究として、森 (2014)を統合させる予定である。対照研究に関しては、中国語と韓国語のデータ収集のレベルにとどまっているので、これまでの日英対照研究の中に反映させる。具体的には、条件命令文(「Vてみろ」相当表現)、否定命令文(「Vな」相当表現)、依頼表現(「Vてくれ」相当表現)の包括的な対照研究としたい。
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