研究課題/領域番号 |
23720228
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
川口 敦子 三重大学, 人文学部, 准教授 (40380810)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | キリシタン資料 / ローマ字 / 表記 / 写本 / イエズス会版 / ドミニコ会版 |
研究概要 |
キリシタン手稿類のローマ字書き日本語の表記について研究するため、ヴァチカン図書館(ヴァチカン市国)、教皇庁立ウルバノ大学図書館(同)、イエズス会ローマ文書館(イタリア)、ヴァリチェリアナ図書館(同)、ローマ大学アレッサンドリナ図書館(同)および東京大学総合図書館(日本)にて調査と資料収集を行った。 現地調査の成果の一部として、ポルトガル国立図書館所蔵の「1627年の殉教に関するフェレイラ報告書」と同一内容の文書を、イエズス会ローマ文書館で収集した。イエズス会ローマ文書館の文書は、ポルトガル国立図書館所蔵の文書と同一文章ながらもローマ字書き日本語の表記が異なる箇所が見受けられ、手稿類の写本間での表記規範の一端が窺える。この研究成果については近々公表予定である。 また、ドミニコ会版であるコリャード『羅西日辞書』諸本について、未報告の異同箇所を発見した。異同箇所から諸本の系統と成立について考察し、これを論文で発表した(「コリャード『羅西日辞書』諸本の異同 ―ローマ、ヴァチカンにおける調査を中心に―」三重大学人文学部文化学科研究紀要『人文論叢』第29号、2012年、67-74頁)。『羅西日辞書』の成立については既に大塚光信氏の論考があるが、本論文では大塚氏の指摘にない異同を報告し、『羅西日辞書』の正篇と続篇は別々に印刷されたものであること、正篇は少なくとも3系統、続篇は少なくとも6系統(a, b-1, b-2, b-3, b-4, c)に分類できることを指摘した。『羅西日辞書』は諸本研究があまり進んでおらず、邦訳を行うにも底本とするべき善本が定まっていないが、本論文はその研究の一助となる基礎研究である。 なお、成果公表の効果的な手段として、主に公表済みの研究成果について情報発信するブログ(http://akawaguchi.exblog.jp/)を開設した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の主目的である、キリシタン手稿類のローマ字書き日本語の研究について、ヴァチカン図書館、イエズス会ローマ文書館、ヴァリチェリアナ図書館において、研究の基となる資料の収集を行うことができた。現在、収集した資料の翻刻を進めているところであり、近日中に成果を論文として公表する予定である。特にイエズス会ローマ文書館で収集した文書は、多くのローマ字書き日本語を含み、なおかつ同一内容の写しが複数存在するが、それらを収集することができたため、写本間のローマ字書き日本語表記の規範について考察する有益な資料となることが期待できる。なお、イエズス会ローマ文書館Jap. Sin文書について、上智大学キリシタン文庫(東京)での予備調査は平成23年3月の東日本大震災の影響により断念したが、イエズス会ローマ文書館(イタリア)で原本を調査する日数を増やすことで対応できた。 キリシタン版研究の対象としては研究があまり進んでいないドミニコ会版の研究についても進捗があった。ヴァチカン図書館、教皇庁立ウルバノ大学図書館、ヴァリチェリアナ図書館、ローマ大学アレッサンドリナ図書館、東京大学総合図書館において、コリャードの著作の調査と資料収集を行うことができた。今回の調査の成果として、コリャード『羅西日辞書』の諸本の異同からその成立について考察し、公表した(「コリャード『羅西日辞書』諸本の異同 ―ローマ、ヴァチカンにおける調査を中心に―」三重大学人文学部文化学科研究紀要『人文論叢』第29号、2012年、67-74頁)。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度に収集した資料の翻刻を行い、文書内のローマ字書き日本語を選別してその表記について研究を行う。特に、イエズス会ローマ文書館に所蔵されている、複数の写しがある同一内容の文書について、文書間で対応する同じ日本語のローマ字表記がどのようになっているか、その相違について精査する。既に文書間で対応する箇所の同じ単語で、異なるローマ字表記がなされている例が見つかっており、このような事例を多く収集すれば、キリシタンの写本におけるローマ字表記の規範や傾向が明らかになると考えられる。また、同一内容の文書が異なる所蔵先に存在することもあるので、判明しているものについては収集して対照研究を行いたい。 今後はポルトガル、スペイン、マカオでの資料調査を行う予定であるが、今年度のイタリアでの調査も決して時間が十分であったとは言えず、必要があれば再訪して追加の資料収集を行うことも考えている。 また、ドミニコ会版であるコリャード『羅西日辞書』について、国内および海外の所蔵調査を行い、異同箇所について精査し、成立過程の研究を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
国内調査として、東洋文庫(東京)所蔵のキリシタン版の調査を行う。また、大阪府立中之島図書館、京都大学図書館等、国内所蔵の『羅西日辞書』の調査を行う。 海外調査として、ポルトガルで平成19年に行った調査の続きを行い、資料収集する。訪問先として、アジュダ図書館、ポルトガル国立図書館、トーレ・ド・トンボ文書館、ポルト公共図書館等を予定している。もし可能であれば、スペイン(トレド管区イエズス会文書館等)での調査も行いたい。 収集した資料の翻刻と分析を行うため、日本語史やキリシタン資料、ヨーロッパの古文書に関する知識習得に必要な資料や書籍を購入する。 研究成果は学会の口頭発表や論文として公表する。
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