研究課題/領域番号 |
23720228
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
川口 敦子 三重大学, 人文学部, 准教授 (40380810)
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キーワード | キリシタン資料 / ローマ字 / 写本 / イエズス会版 / ドミニコ会版 |
研究概要 |
キリシタン手稿類のローマ字書き日本語の表記について研究するため、スペイン王立歴史アカデミー(スペイン)、スペイン国立図書館(同)、サン・ロレンソ・デ・エル・エスコリアル王立図書館(同)、バリャドリード・アウグスチノ会修道院図書館(同)、ポルト市公共図書館(ポルトガル)、リスボン科学アカデミー(同)、アジュダ図書館(同)にて調査と資料収集を行った。また昨年度に引き続き、『羅西日辞書』諸本について、スペイン、ポルトガル、東京、京都、大阪で調査を行った。 現地調査の成果として、ポルト市公共図書館所蔵のキリシタン版『フロスクリ』、コリャード著『羅西日辞書』・『日本文典』・『懺悔録』の他に、幕末期にポルト市に伝来した日本関係資料の書誌情報ならびに伝来の背景について、研究成果を「ポルト市公共図書館所蔵日本関係資料について」(三重大学人文学部文化学科研究紀要『人文論叢』第30号、2013年、137-142頁)として公表した。 各地で収集した『羅西日辞書』諸本について、昨年度に調査した諸本には存在しなかった新たな異同箇所を発見した。京都大学附属図書館では、原本を実際に調査することによって折丁の状態を確認することができ、これによって、昨年度の研究における仮説を裏付けることができた。この研究成果については近日公表予定である。 また、昨年度の研究調査で収集した、イエズス会ローマ文書館の「1627年の殉教に関するフェレイラ報告書」について、ポルトガル国立図書館所蔵の同一内容の文書と、ローマ字書き日本語の表記について比較し、その成果を「一六二七年の殉教報告書の写本二種に見えるローマ字表記」(『叙説』第40号、2013年、104-117頁)として公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の主目的であるキリシタン手稿類のローマ字書き日本語について、昨年度に収集したイエズス会ローマ文書館所蔵の文書の翻刻を行い、これに基づく研究成果を公表した。同一内容を持つ写本について、対応する日本語を詳細に比較することで、これまで「当時の日本語の発音を反映したものである」と解釈されがちであった表記にも写本の筆者個人の言語的な背景による規範意識や誤りが介入している可能性があることを指摘した(「一六二七年の殉教報告書の写本二種に見えるローマ字表記」『叙説』第40号、2013年、104-117頁)。本年度にスペイン国立図書館等で収集した文書の翻刻を進めているところであり、近いうちに成果を公表する予定である。 コリャード『羅西日辞書』の諸本について、本年度に国内および海外で行った調査によって、さらに新しい系統の諸本の存在が明らかになった。『羅西日辞書』は短い間に何度も改版を重ねて出版されており、日本ではなくローマで出版されたという事情はあるものの、17世紀のヨーロッパ人にとっては、伝本の少ないイエズス会版『日葡辞書』等よりも利用しやすい日本語辞書であったことを考慮すると、ヨーロッパにおける日本語辞書の受容とその歴史といった研究の広がりの可能性が考えられる。この成果は近日中に論文として公表予定である。 ポルト市公共図書館で行った資料調査では、カタログから記録が漏れていたコリャード『日本文典』と『懺悔録』の所蔵を確認し、図書館関係者に報告した。その他の古い日本関係資料を調査したところ、幕末期に在神奈川ポルトガル領事であったEdward Clarkeによって寄贈された資料が数点確認され、これらの資料の書誌情報と伝来に関する研究を行い、公表した(「ポルト市公共図書館所蔵日本関係資料について」三重大学人文学部文化学科研究紀要『人文論叢』第30号、2013年、137-142頁)。
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今後の研究の推進方策 |
平成23・24年度に収集した資料の翻刻を行い、欧文が主体の文書内に存在するローマ字書き日本語を選別してその表記について研究を行う。特に、イエズス会ローマ文書館に所蔵されている複数の写しがある同一内容の文書や、スペイン国立図書館とサン・ロレンソ・デ・エル・エスコリアル王立図書館にそれぞれ所蔵されている同一文書の写本について、文書内で対応関係にある同じ日本語のローマ字表記がどのようになっているのか、その相違と特徴について研究する。平成23・24年度の研究成果により、同一内容を持つ写本間でのローマ字書きの日本語の表記にはかなりの揺れがあり、写本の表記から当時の日本語の事情を読み取るためには、写本の筆者の言語的背景や写本の成立過程を考慮する必要があることがわかってきており、さらに資料収集を行い、研究成果を積み上げていくことで、この傾向がキリシタンの手稿類において一般的なものであるか否かが明らかになると考えられる。 今年度のスペインでの調査は、時間的制約から十分であったとは言い難く、またトレド管区イエズス会文書館への訪問ができなかったため、スペインを再訪しての資料収集を考えている。また、イタリアでの調査も決して時間的に十分で有ったとは言えず、必要に応じて追加調査のために再訪することも検討している。 また、コリャード『羅西日辞書』諸本の収集も継続し、本文の翻刻と翻訳も進めていく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
国内調査として、天理大学附属天理図書館(奈良市)、清泉女子大学附属図書館(東京都)、京都外国語大学附属図書館(京都市)等、国内所蔵の『羅西日辞書』の調査を行う。 海外調査として、平成24年度の調査の続きとして、スペインでの資料の調査と収集を行う。訪問先として、トレド管区イエズス会文書館やスペイン国立図書館を予定している。 収集した資料の翻刻と分析を行うため、日本語史やキリシタン資料、ヨーロッパの古文書に関する知識取得に必要な資料や書籍を購入する。 研究成果は学会の口頭発表や学術論文として公表する。
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