研究課題/領域番号 |
23720228
|
研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
川口 敦子 三重大学, 人文学部, 准教授 (40380810)
|
キーワード | キリシタン資料 / ローマ字 / 写本 / イエズス会版 / ドミニコ会版 / 表記 / 国際情報交換 / イタリア:ポルトガル:スペイン:マカオ |
研究概要 |
キリシタン手原類のローマ字書き日本語の表記について研究するため、イエズス会カスティーリャ管区歴史文書館(旧イエズス会トレド管区歴史文書館)、スペイン王立歴史アカデミー、スペイン国立図書館、マカオ歴史文書館にて調査と資料収集を行った。キリシタン資料の主流であるイエズス会関係の文書のみならず、本研究の目的の一つである、ドミニコ会士が関与する日本関係文書の収集も行った。 過年度に収集した資料の翻刻およびその分析に基づく研究成果を公表した。同一内容を持つ複数の写本間で対応する日本語の表記について、写本筆者の母語の正書法や日本語能力などの言語的な背景が表記の規範や誤記に影響を与えていることを指摘できた。従来、写本のローマ字表記は版本のそれよりも規範意識が緩く、それゆえに当時の日本の音声を反映したものであると解釈される傾向があったが、本研究は、キリシタン写本に見られる日本語のローマ字表記について再評価を促すものとなる。 昨年度に引き続いてドミニコ会士コリャード著『羅西日辞書』諸本の現地調査を行った。スペイン国立図書館に所蔵されている『羅西日辞書』3点のうち、これまで大塚光信氏の研究で「マドリー本」と呼ばれた本の原本がどれであるかを、現地調査によって特定した。本資料は改版の記録がない版本ではあるが、実際の本文には複数の異同があり、諸本を比較するとその状態は複雑で、その異同がどのような過程を経て生じたのか不明な点があった。今回、スペイン国立図書館で確認された新しい系統の諸本の存在によって、本資料の改版は少なくとも1回であり、現存する諸本の複雑な本文異同の状態は製本過程によるところが大きいという仮説を提示することができた。この仮説に基づけば、『羅西日辞書』研究に必要な最善本の探索に伴う問題が浮かび上がる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の主目的であるキリシタン手稿類のローマ字書き日本語について、過年度に収集した文書の翻刻と分析を行い、これに基づく研究成果を公表した。 現地調査の成果として、過年度に収集したイエズス会ローマ文書館所蔵「1628年日本年報」の同一内容写本3点に見られるローマ字書き日本語について分析し、その表記の評価について論じた。この成果は「信徒文献―写本類におけるローマ字表記の異同から―」(豊島正之編『キリシタンと出版』、2013年10月、八木書店、267-285頁)として公表した。また、キリシタン関係文書のローマ字書き日本語の特徴や、イエズス会ローマ文書館所収文書に描かれた「奇跡の十字架」とバレト写本所収文書との関連について、「ヨーロッパの図書館・文書館の長崎関係キリシタン資料」(若木太一編『長崎 東西文化交渉史の舞台:ポルトガル時代/オランダ時代』、勉誠出版、2013年9月、106-127頁)として公表した。 昨年度までに収集した『羅西日辞書』諸本の本文異同および折丁の状態から推定される成立過程について、その成果を学術論文「コリャード『羅西日辞書』諸本の異同(2)―国内諸本など―」(『三重大学日本語学文学』第24号、2013年6月)として公表した。また、日本で出版された『羅西日辞書』の影印本のうち、スペイン国立図書館所蔵本は「マドリー本」と呼ばれてきたが、スペイン国立図書館には同書が3点所蔵されていることを確認し、この3点の中から「マドリー本」の原本を特定した。スペイン国立図書館所蔵本の本文異同から『羅西日辞書』の成立過程について新たな仮説を提示した。この成果は近日公表予定である。 なお、日程の都合により、平成25年度に予定していた天理大学附属図書館と京都外国語大学附属図書館での現地調査の代わりに、平成26年度に実施予定であったマカオ歴史文書館での現地調査を行った。
|
今後の研究の推進方策 |
平成23~25年度に収集した資料の翻刻を行い、欧文が主体の文書内に存在するローマ字書き日本語を選別して、その表記について研究を行う。特に、イエズス会カスティーリャ管区歴史文書館およびスペイン王立歴史アカデミーで収集した文書には、日本文字(漢字・仮名)と対応する形で書かれたローマ字書き日本語が散見され、ローマ字と日本文字との対応関係とその特徴にも注意して分析を進める。同じ「欧文が主体」の文書でも、主体となる言語による日本語表記への影響の違いなども考慮して、研究を行う。 平成25年度の現地調査では訪問できなかったパストラーナ文書館の日本関係文書(現在はマドリードに移管)の調査を行う予定である。また、過年度には日程の都合で不十分であった図書館・文書館での資料調査も、必要に応じて行いたい。日程の都合により、平成26年度に行う予定であったマカオでの調査を平成25年度に行ったが、その代わりとして、平成25年度に行う予定であった国内調査を行う。 コリャード『羅西日辞書』諸本の収集も継続し、本文の翻刻と翻訳も進めていく。 本研究計画の最終年度にあたり、平成23~26年度の研究成果をまとめる形での最終報告を行う予定である。
|