ローマ字書き日本語の記載があるキリシタン関係手稿類を収集するため、フランシスコ会イベロ・オリエンタル文書館(AFIO)を中心に、スペイン国立歴史文書館、スペイン国立図書館、王立歴史アカデミー、イエズス会カスティーリャ管区歴史文書館にて調査と資料収集を行った。ドミニコ会版について、スペイン国立図書館とAFIOに所蔵されているものを数点確認したが、いずれも虫損等による傷みが激しく閲覧が困難な状態であった。 前年度に引き続き、コリャード『羅西日辞書』諸本について、スペイン、天理、京都で調査を行い、『羅西日辞書』本文の異同には印刷技術や製本過程が大きく関与していることを明らかにした(「コリャード『羅西日辞書』諸本の異同(3)―「マドリー本」をめぐって」―」『三重大学日本語学文学』25、2014年、1-10頁、「コリャード『羅西日辞書』諸本の異同(4)―活版印刷の技術的背景から―」『三重大学日本語学文学』26、2015年、印刷中)。これは他のキリシタン版の本文表記を検討する際にも必ず考慮しなければならない問題である。 研究期間を通して収集した手稿類のローマ字書き日本語の表記について、資料の年代(16世紀半ば~17世紀半ば)による傾向はあるものの、音節によってその傾向が異なることがわかった。例えば、日本でキリシタン版が刊行される1590年代以降、ツは版本と同じ表記に統一されるが、サ・ス・ソやヂャは手稿類独特の表記が完全には淘汰されていない。ツとヅはともにポルトガル語にない発音であったが、それぞれの表記のあり方の違いについて、当時の日本語の破擦音の状態とその把握の問題として、ヅ=dzuの表記を提唱したジョアン・ロドリゲスの記述をどう解釈するかという視点を交えて論じた。この研究成果は、「キリシタン手稿類のヅ表記とその周辺」(『国語国文』84-4、2015年、印刷中)として公表する。
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