本年度は、これまで収集した資料の翻字を集中的に行うとともに、データベースの作成と分析を行った。なお、収集資料を総合的に集約し、さまざまな角度から分析・研究できるようなデータベースの作成を行った。具体的には、本文を漢字・仮名の区別ができ、さらに異体仮名で翻刻する作業を行い、分析する写真資料をデジタル化し、翻刻に並置・表示させることで利便性を高めた。また、本年度は通時的傾向を把握するため、院政期の仮名資料の収集も行った。院政期の仮名資料は、その多くがすでに出版されていることから、出版されている資料を中心に収集した。 本年度の研究成果として、平成26年12月に「藤原伊行の書写規範意識とその実態」を論文発表した。本論では、藤原定家以前の能書家の仮名書写に対する意識を解明することを目的として考察を行った。考察方法として、書の伝書を最初に著した伊行に着目し、伝書として記した『夜鶴庭訓抄』の内容と伊行自筆である『葦手下絵本和漢朗詠集』とを照らし合わせ、仮名書写における規範意識の実態分析を行うという手法を用いた。考察を通して、伊行の仮名の書写と規範との相関性について、『夜鶴庭訓抄』で規範化した事項においては、それを順守した書写を行っていた。一方、規範化しなかった仮名遣いについては規則性が見られず、書写において意識しなかったと考えられた。葦手本『和漢朗詠集』が書写されたのが1160年、『夜鶴庭訓抄』が成立したとされるのが1170年ごろであることから、葦手本『和漢朗詠集』での書写を通して、『夜鶴庭訓抄』の仮名の事項が構想されたのではないかと考えられた。
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