研究課題/領域番号 |
23720239
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
平山 真奈美 立命館大学, 産業社会学部, 准教授 (90580027)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 母音の無声化 / アクセント / 対立 / 知覚 |
研究概要 |
本研究の目的は、日本語らしさを特徴づける音声現象の一つである母音の無声化現象について、まだ本格的な研究が非常に少ない韻律構造に注目しメカニズムを解明することである。4つの課題を立て、23年度はそのうち以下の2点に取り組むことを計画した。(1)母音が無声化したときに聞き手が音韻構造、特にアクセント構造、を再構築できるかを、知覚実験で明らかにする。(2)形態論的な情報が音声的な現象に影響を及ぼさないのか、フットという韻律構造に着目して調べる。(1)はほぼ計画通り進んでいる。(2)は年度内にはほとんど着手できなかったが、2012年4月に早速着手する(詳細な計画は、「今後の研究の推進方策」欄を参照)。以下(1)の成果を報告する。 知覚実験では、無声化母音が関わってアクセントの位置のみが違う同音異義語の対立ペア(例えば「騎士」と「岸」)の発音の違いを、聞き手がきちんと聴き取っているのかを検証した。11名の実験協力者から得たデータ分析の結果、対立の種類によって知覚の容易い対立とそうでない対立があることがわかった。また細かく見ると語境界の影響が示唆されるなど、新たな知見が得られた。また無意味語を使った先行研究とは一部違う結果が出たことから、実在語を使ったことにより現実の言語現象の解明につながった。更にこの結果は、母音無声化固有の問題を超えて、音声産出(発音)と知覚の間にはずれがあることを裏付ける。3月に発表し貴重なフィードバックを得たので、これを活かして現在論文を執筆中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究実施計画では、平成23年度中に知覚実験、その分析及び成果発表に加え、二番目の課題である形態論、韻律構造と母音の無声化との関わりについて、データ収集及び分析までを終える予定であった。知覚実験については、分析は終わり、口頭発表での成果発表をしたが、論文投稿がまだ完遂していない。また、二番目の課題は着手に遅れが出た。しかしながら、次年度の研究計画を大幅に変更する必要はないと思われる。なぜなら、二番目の課題について、研究環境を既にかなり整えているからである。これを考えると1-2ヶ月の遅れにとどまっていると言える。これらの理由から、「やや遅れている」と判断した。 本年度全体的に研究進度が幾分遅くなった理由として、研究環境の変化を挙げたい。研究所から大学機関に赴任し、初めて専任職に就いたことも手伝って(想定を超える委員会活動等)、思うように研究に時間を割くことが難しかった。
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今後の研究の推進方策 |
「現在までの達成度」に述べたように、研究計画を大幅に変更する必要は今のところないと思われるため、引き続き計画に沿って課題に取り組む。 まず少々遅れている事項に着手し、知覚実験の成果を論文の形にまとめて雑誌に投稿する。そして、語境界、形態論との関係については、新年度すぐに辞書検索を通して研究を進める。アクセント辞典から語を抽出して分析し、無声化母音にアクセントがある語のアクセントバリエーションを説明するのに境界が有意味かどうか、また有意味だとして、この境界が形態論的なものではなく音韻論的なものであると分析できるか研究する。そしてこの研究を口頭発表し、論文にまとめる。アクセントバリエーションを見ることは実は計画書に書いた研究とは少し異なるが、母音の無声化と形態論及び韻律構造との関わりを見ることができるという意味で目的は変わっていないため、本研究の課題として位置づけることが出来る。当初予定していた音声産出に関わる研究も実施したいと考えている。 更に、計画書にある通り、残りの課題2点に着手する。まず、子音連続に関する音声プロセスについてデータを取り、分析し、研究成果を発信する。そしてきしみ声の使われ方と母音無声化について、これを調べられるよう準備を始める。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度分に計上していた図書購入が遅れ未使用額が残ったが、新年度には図書を充実させる予定である。 また、研究環境が変わったことや、研究所内で実験協力者が集まったことなどにより、知覚実験にかかる謝礼の額がやや計画より少なくおさまった。ただし、今回の経験から、実験に伴うタスクを考えると、今後の実験及びデータ収集では謝礼を増額する必要もあると思われるため、この方向で研究を実施する。また、データ処理をアルバイトを雇ってお願いすることを予定していたが、これまではその必要がないと判断したため、未使用となった。今後は知覚実験ではなくて音声産出のデータ分析のため、第三者にデータ処理の一部をお願いすることが出てくると思われる。 計画より少々遅れている研究成果発表に伴い、次年度は積極的に学会発表を行う。これにより次年度は旅費やその他学会発表の準備にかかる費用について、本年度未使用分も併せて執行することになるだろう。
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