本研究は日本語の母音無声化について、韻律構造に注目し、実験および記述を通して、また他言語・他方言との比較を通して、そのメカニズムを解明することを目的とている。4つの課題に3年間で取り組む計画をたて、概ね良い実績をあげられた。 1 母音が無声化した時、聞き手が語のアクセント構造を再構築できるかどうかを知覚実験にて調べる課題。初年度に計画通り実験を行い、聞き取りの容易な対立とそうでない対立があることがわかった。また、語境界の影響や、発音と知覚の間のずれが示唆されるなどの知見も得られた。結果は国際学会で発表した後、論文にまとめて投稿し、現在リバイズの最中である。 2 形態論的な情報が母音の無声化に影響を及ぼすという先行研究の主張を受け、本当にそうなのかを明らかにする課題。当初の計画では音声実験のみであったが、辞書データを用いた研究の重要性、緊急性が浮上したためそちらにも取組み、実際には二つの研究を行った。辞書を用いた研究は主に24年度に行い、形態論的な情報より音韻論的な情報が母音の無声化には影響を及ぼすという、従来とは異なる仮説を支持する結果を得た。音声実験の研究は25年度に行い、この仮説に更なるサポートを与える結果となった。二つの研究はどちらも国際学会で発表し、後者は既に論文にまとめ現在査読結果を待っている。前者も早急に論文にまとめ学会誌へ投稿する予定である。 残りの課題(母音の無声化現象が子音連鎖を生んでいるか、きしみ声の使われ方を母音の無声化を通して記述・考察する)に関しては、残念ながらほとんど着手できずに研究期間終了を迎えた。自身の研究環境が変わり、計画通りの時間配分が難しくなったことが主な原因である。しかしながら、前述の研究成果はどれも予定より深い成果が得られたことから、本研究の課題「母音の無声化とプロソディーの相互作用」に対し、質的に重要な成果を上げられたものと考える。
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