研究課題/領域番号 |
23720240
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研究機関 | 沖縄国際大学 |
研究代表者 |
小嶋 賀代子 (下地 賀代子) 沖縄国際大学, 総合文化学部, 講師 (40586517)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 琉球語 / 水納島方言 / 多良間方言 |
研究概要 |
本研究は、消滅の危機に瀕していると言われている琉球語(琉球方言)の中でも極めて危機的な状況にある水納島方言を対象とし、同方言の包括的な記述研究とテキストの作成を目指すものである。本研究における具体的な作業内容は以下の通りである。(1)基礎語彙調査を行い、水納島方言の音韻体系を明らかにする。(2)水納島方言の文法体系(形態・統語)を網羅的に記述する。また、語りや会話など、水納島方言の談話テキストも作成する。 平成23年度は、9月、10月、11月、3月の計4回、宮古島平良市の高野集落および多良間島への臨地調査を行った。これらの調査で、各地在住の数名の話者の方々の協力を得ることができた。調査内容について、まず、動詞の活用体形の諸形式のうち、終止形、連体形、準体形に関する調査と、名詞の格形式についての調査を行った。これは、上記作業内容の(2)に含まれるものである。いずれの調査でも、既存の調査票のほか、初回以降の調査の結果を踏まえ必要と判断したものを新たに調査項目に加え、行った。そして、名詞の格についてはその形式及び用法について体系化を行い、沖縄言語研究センターの研究会で発表した(2011年10月、於琉球大学)。水納島方言の格に関する研究、調査報告はこれまでほとんどなされておらず、琉球語研究におけるその意義は明らかである。 また3月の調査では、動詞の活用形とと名詞の格についての調査のほか、基礎語彙調査票を用い、水納島方言の基礎語彙の調査も行った。これは、上記作業内容の(1)に含まれるものである。調査票の項目は1000語余りに上るが、その約3分の1を終わらせることができた。水納島方言に関する先行研究の多くは音韻に関することであるが、多良間島方言との差異として挙がっている内容―いわゆる中舌母音のi母音化、鼻音[n]と[m]の混同など―について、再確認することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究開始初年度に所属研究機関が変わったため、今年度の上半期に臨地調査を行うことができず、当初予定していた回数の調査は行うことができなかった。そのため、本年度の研究実施計画に掲げた項目のうち以下の数点に関して、当初予定していた達成目標にまでは至れなかった。(1)基礎語彙調査がまだ終了しておらず、そのため、音声の分析と音韻の体系化についてもまだ考察中である。(2)名詞について、人称代名詞と指示語についての記述、体系化が未完了である。(3)動詞について、テンス・アスペクト、ムードなどの文法的カテゴリーに関する形式とその用法の調査を残している。(4)形容詞について、動詞と同じく終止形、連体形、連用形、条件形などの各活用形の文法的な意味と用法の記述研究を行い、その体系化をめざす予定であったが、動詞の調査が遅れたため、形容詞の本格的な調査に移ることができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
次年度はまず、前年度に引き続いて水納島方言の調査を行う。調査は初年度と同様の方法で行っていく。具体的には、上半期で音韻体系をまとめるほか、動詞の基本的な活用体系とテンス・アスペクト、ムードなどの各文法的カテゴリーに関する調査とまとめ、また形容詞についても同様の調査、研究をすすめていく。そして下半期からは、統語論に関わる文法事象の調査と記述研究を進めていく。 また、水納島方言及び水納島、高野集落に関する資料を探索し、その入手、読解にも務める。その資料調査地として、東京の国立国会図書館、沖縄県立図書館、琉球大学付属図書館、沖縄国際大学南島文化研究所、多良間島のふるさと民俗学習館などを訪問する。そして、初年度と第2年度の前半までにおこなった研究成果の中間報告的な研究発表を、沖縄言語研究センターや沖縄文化協会などの沖縄県内で開催される研究会や地方学会で行い、沖縄在住の研究者と意見交換を行う。 最終年度では、初年度、第2年度にひきつづき、水納島方言の文法記述を集中して行い、まとめる。その過程で、補足調査の必要な項目を明らかにし、臨地調査も行う。なお最終年度であるので調査は夏期休暇中までとし、研究成果のとりまとめの作業を中心に計画を進める。また、研究成果の取りまとめとともに談話資料のテキスト化の作業も進めていく。 そして、調査結果をまとめ、沖縄県内で開催される研究会や学会の他、日本語学会や日本文法学会などの全国大会で本研究課題の研究成果を発表する。また、『日本語の研究』などの学術雑誌への研究論文の投稿も行う。そして、冊子およびCD-ROMの形で成果を公開、刊行する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は所属研究機関の変更のため、臨地調査の回数が当初の予定より少なかった。また、調査地と所属研究機関の物理的距離が申請時より短くなったため、航空運賃も当初の想定よりも安くなった。これらのことにより、主に旅費として計上した費目の一部は次年度に使用する予定となっている。 次年度の研究費の使用計画について、まず、調査を当初の計画よりも数回多く実施し、その増加分の旅費に上述の費目を当てたいと考えている。また、学生アルバイトを雇い、文字化した言語資料のタグ付けを行わせるほか、これまでに得られた関連資料のデータ入力作業を業者に委託する。これらの作業に要するアルバイト料および業者委託料にも、次年度に使用する予定の研究費を当てる。
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