本研究は、消滅の危機に瀕していると言われている琉球語(琉球方言)の中でも極めて危機的な状況にある水納島方言を対象とし、同方言の包括的な記述研究とテキストの作成を目指すものである。本研究における具体的な作業内容は以下の通りである。 (1)基礎語彙調査を行い、水納島方言の音韻体系を明らかにする。 (2)水納島方言の文法体系(形態・統語)を網羅的に記述する。また、語りや会話など、水納島方言の談話テキストも作成する。 研究の初年度及び2年目は宮古島市平良の高野集落および多良間島への臨地調査を計9回行った。具体的な調査内容は、動詞の諸活用形式のうち終止形・連体形・準体形、名詞の格形式、基礎語彙などである。そして、名詞の格についてその形式および用法について体系化を行い、研究会での発表を踏まえて論文にまとめた。挌をはじめ、水納島方言の文法に関する先行研究はほとんど皆無であり、琉球語研究におけるその意義は明らかである。また基礎語彙調査によって、先行研究で指摘されている多良間島方言との音韻上の差異―中舌母音ウムラウト[i]が現れない、鼻音[n][m]を音韻上区別しない、側面音[l]を用いないなど―を確認したほか、親族名称の語彙体系が一部多良間島のそれとは異なっていることを確認した。この他『多良間村の民話』(多良間村、1981年)の元となった音声談話資料のテキスト化(一部)も行った。 そして、研究の最終年度は2回の臨地調査を行い、基礎語彙と格形式の補足調査、動詞の推量形について調べた。年度後半はこれまでの調査結果の分析と考察、また前年度に引き続き音声談話資料のテキスト化を行った。現在これらの調査・研究の成果を発表するため論文化の作業を進めている。
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