研究課題/領域番号 |
23720250
|
研究機関 | 奈良教育大学 |
研究代表者 |
米倉 陽子 奈良教育大学, 教育学部, 准教授 (20403313)
|
キーワード | 二重目的語構文 / 受動化 / 構文化 / 文法化 / 受益者受動 |
研究概要 |
研究計画2年目の予定を一部,平成23年度に行ったため,研究2年目にあたる平成24年度は本来,研究計画1年目に行うはずだった「tough構文,it分裂文,wh疑問文,話題化構文それぞれの情報構造と二重目的語構文の情報構造を調査し,先行研究の妥当性を検討する」を中心に研究を進めた。 現代英語の二重目的語構文に適用される移動操作に関しては,いわゆる非有界依存を形成できないことが指摘されてきた。すなわち,間接目的語(以下,O1とする)は移動操作の対象とはできない。ところが直接目的語(以下,O2とする)を移動対象とすると,大幅に容認度が上がる。一方,受動化の場合はこれとは逆に,O1は移動の対象となりうるが,O2は受動化に抵抗する。この現象を認知言語学の枠組みで扱う場合,二重目的語構文におけるO1とO2の情報構造的ステータスや参照点構造に言及することが多かった。 本研究では上記のような立場とは一線を画し,各々の移動操作構文に特有の事情をより考慮した分析の必要性を指摘した。例えば話題化操作であれば,O2よりもO1が移動に抵抗することを,無理に二重目的語構文の意味に還元せずに,話題化構文そのものの特性と考えた方が,二重目的語構文・話題化構文双方の構文を解明するのに有益なのではないか。このようなアプローチは,「各々の構文にはその構文自体の意味がある」とする構文文法(Goldberg 1995)の趣旨にも反するものではない。 以上のように,二重目的語構文の受動化を分析する際には,二重目的語構文の意味機能だけでなく,むしろ受動構文そのものに着目する必要があると考えた。また,このようなアプローチは,古い英語ではO1よりもむしろO2が受動態の主語となっていた事実(O2に代わってO1が受動態の主語となるようになったのはせいぜい14世紀後半である)を説明するにも都合がよいという結論に至った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画2年目の内容にはいろいろな構文(tough構文,話題化文,it分裂文等)が関係していたため,それらの先行研究を調べることに時間がかかった。例えばit分裂文についていえば,it isの後ろに来るのは「焦点」であるとしばしば考えられてきた。しかし「焦点」を「新情報」とみなし,さらに二重目的語構文のO1=旧情報,O2=新情報と単純化したうえで両構文を融合させてしまうと,it分裂文,二重目的語構文の双方の分析を誤りかねない。 ただ,各々の構文を微細に分析することは時間的にも不可能であるし,また本研究は「英語における受動態構文機能の拡大プロセスの分析」に焦点をあてているので,さまざまな移動操作そのものを解明することは,本研究の本来の目的でもない。ポイントは,現代英語における二重目的語構文の情報構造は,O1, O2の被移動操作可能性を一律に説明できるのかという問題である。研究計画2年目の研究により,O1, O2の被移動操作可能性をすべて二重目的語構文の意味構造に求めるのは無理があるという結論に達したので,研究計画1年目に行った受動態構文そのものの機能拡張に着目するアプローチの有効性が得られた。1年目に行った分析と2年目に行った分析をまとめ,2012年度中に出版された論文集に成果を発表した。また,構文化の問題と絡む関連書籍の書評も担当した。 以上の理由により,当該研究はおおむね順調に進んでいると判断している。
|
今後の研究の推進方策 |
研究計画最終年度では主に主観化の問題を考えていきたい。本研究ではここまで,「動詞主導の文法化」「構文主導の文法化」の存在を考えてきた。また,現代英語の受動態構文には,エネルギー伝達上の非対称性に基づいてtr/lm反転を行う受動態を「プロトタイプ的受動態」,スキーマ化が進んだ受動態を「拡張型受動態」と想定してきた。プロトタイプ的受動態と拡張型受動態はともにtr/lm反転という共通の機能を持っている。しかし前者では,エネルギー伝達上の非対称性という,動詞の語彙的意味に基づいての反転が起こっているのに対し,後者では話者の事態のとらえ方により依存した斑点が起こっている。これはLangackerの主体化の例でもあり,Traugottの主観化の例でもあると言えるのではないか。Langackerの主体化的観点では,客観的意味(ここでは動詞の語彙的意味)が希薄化した結果,tr/lm反転という認知操作だけが際立つようになっていると言えるし,Traugottの主観化的観点では,本来テキスト中にはなかった「話者の見方」が主語参与者と目的語参与者間の非対称性を引き起こし,ひいてはtr/lm反転につながるからである。 Hopper and Thompson (2001)などでlow transitivityが主観化につながる可能性が指摘された。研究最終年度の3年目は,「低い他動性」は結局のところ,「客観性」に還元できることを論じ,英語受け身構文の発達にみられる動詞の語彙的意味の希薄化が「低い他動性」と関係している可能性を追求したい。また,受動化現象だけでなく,助動詞の意味変化のメカニズムも並行的に扱えないか,模索する予定である。
|
次年度の研究費の使用計画 |
当初の研究計画から特に大きな変更点はない。認知言語学理論に基づいて書かれた二重目的語構文・受動態・主観化,その他関連構文分析についての資料購入費と研究会・学会出席のための旅費に充てる予定である。
|