研究課題/領域番号 |
23720253
|
研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
有光 奈美 東洋大学, 経営学部, 准教授 (00408957)
|
キーワード | 多義語 / 意味変化 / 形状 / 認知基盤 / 意味理解 / 対比 / 否定 |
研究概要 |
言語表現の部分の研究については、国内外での学会発表を重ね、進展している。フランスのCaen大学で行われた学会発表が契機となり、昨年度日本フランス語談話会(京都大学)で発表に招待されたのに引き続き、今年度、発表内容を再構築・発展させてまとめた論文が論文集としてフランスで出版された。"On Semantic Shifts to Intensifiers from the Viewpoints of Negativeness and Completeness."(Syntaxe & Sémantique, 13, Presses universitaires de Caen, 2012)である。Completeness(完全性)の一つの動機づけに形状表現を挙げられるが、形状表現(視覚的刺激)の中には自然界に存在しているものも多い。植物や天体など、自然界の形状の中に安定的形状を見出せる。音楽(音)にも安定・不安定といった対比がある。宗教的立場でも3(三位一体:神、イエス、聖霊)などは特別な安定を持つ数字である。正三角形、正四角形、正六角形、正八角形、正12角形等々、正多角形を究極に近づけると円になるように、円や球は極めて安定的な形状を言えるが、そのことが言語表現・言語使用にも見られることを対照言語的に指摘した。また、日本語用論学会(大阪学院大学)にて「英語広告表現におけるメタ言語否定・意味反転・共有知識からの逸脱に関するズレの階層性」を口頭発表、論文「Yes and No に類する認知メカニズムと対比の全体性について」を「山梨正明先生退官記念論文集」掲載、論文「「無」「空」の関連表現と広告言語表現における “fill the void” の位置付け--- John Cage「4分33秒」の世界観との接点---」を東洋大学経営学部紀要No.79に掲載した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
言語系の部分については計画通りに研究を遂行できているが、一方でなかなか撮像のタスクを完成できない。学内業務が多忙であることに加えてタスク作成の計画から実行に至るまでに調べることが多く、諸データをまとめるだけでも大変時間がかかっている状況にある。タスクを作成してから実験に入ることになるが、実験に着手する前に取り組むべきことや検討することが非常に多いと感じている。実際に実験に入る前にやることが多く、進んでいない。タスクを決定させてしまってさらに先のことへ着手してから、また戻って計画の立て直しであるとか、タスクを再度作成し直すよりも、今の段階で熟慮した方が良いとは思われるが、今年度は少しでもタスク作成を前に進めたいと切望している。言語表現のバリエーションの検討だけでも予想以上に時間を要するものであると感じているが、形状の認知というテーマにおいて言語と脳の接点を見出すためにタスクと撮像に至るまでの距離を縮めていきたい。より広い視点から見たときの意味理解ということにおいて、形状と言語表現が密接な関係を持っていることは明らかである。ただその結びつきであるとか、背景にある意味理解の動機づけ、意味変化の動機づけとなっているものについては、充分に解明されていないのである。本研究の独特で有意義な点は、その従来取り組まれてこなかった形状の「意味」と言語表現の「意味」との間の結びつきを同定しようとしている点にあり、そのことを測定しうる・裏付けできるようなタスクを完成させたい。そして、言語の分野には形状(視覚的動機)に根差した意味理解への1つの手がかりを提示し、人間の認知基盤を部分的にでも明らかにしたい。遅れている理由は時間の不足にあるので、より研究を遂行するための時間を確保し、さらなる工夫をしていきたい。言語表現の吟味の方にこれまで多くの時間が取られているので、時間配分も配慮していきたい。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は撮像の実現に向けて進めていく。毎週必ず撮像関連の研究時間を設けることを課して、少しでも前に進めたい。現在、形状関連の言語表現について網羅したと言える状態にないので、それについて一定のまとまりをつけたいと考えている。その一方で、言語表現にだけかかわっていて時間が非常に不足している状況があるので、形状についての視覚的刺激について収集してきているものをどのように並べ、どのように増やし、タスクの形にするかということを具体的に形にしていきたいと考えている。視覚的形状と言語との刺激のミックスを作るところに試行錯誤が存在しているが、視覚的形状の方に今後はより多くの時間を割けるようにして、言語との結びつきを解明していく。国内・海外の学会で言語表現については発表をしていくことができる状況にある。言語の意味変化については、多くの先行研究があるが、その動機づけの一つを形状に求めようとしている研究は新しい貢献をすることができる。形状表現は、筆者がこれまで取り組んできた言語における対比・否定という対象と密接に結びついており、安定的な形状であるか、不安定な形状であるかということは、間の基本的な認知基盤に根差した視覚的な要因である。このことは「望ましさ」「望ましくなさ」といった観点とも結びついており、ひいては普遍的な人間の志向性や選択基準や選択動機づけの解明についても利することができると考えている。人間が何故何かの対象を好ましいと感じ、好ましくないと感じるのか、ということは形状だけに限らないが、形状関連の言語表現には日常生活で人々が気づかないほど浸透している意味の反転や変化が存在しており、その意味変化の背景には、人間が何を「有標である」と感じているかということが深くかかわっている。学会発表した内容を、論文の形でまとめていく。大学の紀要の他、国内学会誌、国際学会誌にも掲載されるように投稿していく。
|
次年度の研究費の使用計画 |
国内外の学会発表や論文投稿を従来通り行いつつ、撮像の実現に力を入れる。4月から新しく撮像関連の勉強会に参加することを予定している。図形・形状デーをタ分類し、画像としてひとまとめにする。夏は他大学の撮像関係研究者たちと連携をとりながら、形状と意味の接点をより明らかにしていく。勉強会参加を計画しており、タスクの悩みについても意見交換や情報交換し、定期的に・一定の短い間隔で研究の進捗状況を振り返り自己把握する。形状表現の画像化に、よりふさわしいソフトやパソコンを含めて検討し、言語と形状を適切にミックスできる方法を遂行する。手話の専門家にヒヤリングしたり専門的知識の提供を依頼し得るところが多かったので、今後も周辺領域や複合領域にまたがる専門家たちの知見を収集し、タスクに反映させたい。言語系の学会に主に参加・発表しているが、本研究には関連分野の知見も不可欠で、より広い学会で情報収集・発表をして相互のすりあわせを行う。タスクの方向性が軌道にのったあとは、アルバイトを頼んで多くの具体的作業を依頼予定である。被験者への謝礼もある。紙媒体からでも次年度はタスクのパイロット的実行をし、あたりをつける。言語表現で取り組みたい内容も残っているので、それと並行しつつも、次年度はタスクとの結びつきを具体化する。最近の研究打ち合わせにて、紙媒体の他、音刺激(音声を聞かせるタスク)でも類似の検証可能という情報交換をしたので、音刺激も含めて実施計画をしている。昨年度は秋学期に2コマ増コマがあり授業面にとられる時間が多く研究が予定通りに進行しない部分があり、それに伴い予算もくりこしが生じた。しかし、時間配分の難点を鑑みた上で、次年度はこれまで予定していた研究内容を遂行するだけでなく、タスク作成に関する作業を進めるため、新しい画像ソフトや音を処理できるソフトの購入などを含めて予算執行を予定している。
|