研究課題/領域番号 |
23720257
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研究機関 | 九州産業大学 |
研究代表者 |
南 佑亮 九州産業大学, 国際文化学部, 講師 (40552211)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | Pretty構文 / 知覚動詞 / 属性叙述 / Construction Grammar / 属性認知モデル / 構文の意味 |
研究概要 |
今年度は、(1)Mary is beautiful to look at.(メアリーは見た目が美しい)のようなPretty構文と称される現象のうち、to不定詞句に知覚動詞が生起する事例からなるデータベースの作成に取り組んだ。特に、視覚を表すlook at, behold, watch, seeと聴覚を表すlisten toとhearに関して、Corpus of Contemporary American EnglishおよびBritish National Corpusも用いて事例を収集した。当初の計画どおり、データ処理の作業については学生のアルバイトに協力を得て事例へのタグ付けを行い、個々の事例の詳細な分析については研究機関に所属する英語母語話者の協力を得て実施した。その結果、予想していたよりも個々の事例の検討に時間を要したため、完成したデータベースの分量は当初の計画よりも少なくなったが、その分、予想以上に興味深い事実観察が得られた。とりわけ興味深いのが、叙述類型論の分類に従えば属性叙述文に該当すると考えられる当該構文の主語名詞句が(1)のように単純に個体を指示している場合だけではなく、関係節等の修飾句を伴うことで対象物の着目すべき属性が主語のレベルで既に明示されているケースも多数みられることが判明してきている。加えて、このようなケースは、to不定詞部に特定の知覚動詞が生起する場合に偏る傾向がある。これは、当該構文における動詞が指定された構文スキーマ(constructional schema)が独自の言語単位と成すことがあるとする本研究の仮説を強く示唆している。さらに、この研究成果は、構文理論(construction grammar)の立場から、当該構文に限らず、様々な属性叙述文を分析していくための重要な基盤となることが見込まれる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初は、知覚動詞を伴うPretty構文の分析にあたり、他の知覚動詞構文(特に連結的知覚動詞構文)との比較対照を積極的に採り入れることを計画していた。しかし、記述レベルの研究を進めるにしたがい、前者のデータを収集し分析していくだけで十分な特徴づけがおこなえる見通しが出てきたため、他の構文との比較には重きをおかず、むしろPretty構文の特質を知覚動詞単位で精査することに集中的に取り組み、一定の成果を得ることができた。研究成果の発表状況は当初の計画よりもやや遅れているものの、査読付きの研究発表・論文投稿に値するだけの成果は得られているので、次年度の早い段階から投稿の準備を進めていく計画である。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度はおもにデータの整理を中心とした記述研究に労力を費やしたため、出張費用および書籍や文献の購入費用が当初の見込みよりも少なくなり、繰越金が発生することとなった。平成24年度は、引き続き前年度に実施した記述的研究に取り組むとともに、理論的研究に取り組んでいく。これには種々の言語理論に関する文献の精査が不可欠となるため、前年度よりも雑誌や書籍の購入に多額の予算が必要となることが見込まれる。具体的な研究手順としては、初年度で作成したデータベースに基づいた個々のデータの精査を継続的に実施することと並行して、本研究における記述研究の成果から構文理論(construction grammar)への貢献について、叙述類型論との関連から考察を進めていく。叙述類型論では、叙述のタイプを事象叙述と属性叙述に大別するが、構文理論で中心的に扱われてきたのは事象叙述文が専らであり、属性叙述文はほとんど扱われてきていない。24年度はこの点を鑑み、構文理論が属性叙述文にアプローチする際、特にその意味の構造をどのように扱うべきかという問題意識から、事象叙述文の意味分析が暗黙のうちに特定の認知モデルを前提としてきたことを明らかにしつつ属性叙述文にはそのモデルの適用が困難であり、別の認知モデルを構築する必要があることを実証的に論じていく。特に後者の理論的な研究の成果は、年度内に国際誌に投稿し、その意義を問う計画である。尚、24年度は申請者の異動に伴い、23年度とは異なる研究機関で実施することになるが、研究への協力を得られる英語母語話者は新たな研究機関でもすでに確保できているうえ、23年度の研究機関で協力を得ていた方にも引き続き協力をいただけることになっている。したがって、計画どおりに研究を進めることに支障はないと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
機器備品:英語母語話者を対象とするインフォーマントへ調査の比重がさらに大きくなることが見込まれるため、作業効率を上げるためにICレコーダーを購入する。また、データ分析の効率を向上させるために高性能の電子辞書を購入する計画である。研究旅費:日本認知言語学会(9月)、日本言語学会(6月、11月)、日本英語学会(11月)といった国内学会への参加に加え、自身の研究発表が実現すれば、国際学会(Berkeley Linguistics Society等)に参加する。研究資料費:構文理論(Construction Grammar)およびその周辺領域での最新の研究成果に関する書籍・雑誌を購入する。
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