研究概要 |
本研究では、認知言語学における構文理論(construction grammar)の観点から、これまではこの理論において研究対象にされることのなかった英語のPretty構文(Mary is pretty to look at.等)の記述と分析を試みた。本研究の目的は、(1)英語の記述研究への貢献と、(2)構文理論の新たな可能性に光を当てることであった。 初年度は、pretty構文のうち、特にto不定詞句内に特定の知覚動詞が生起した事例群を一種の「構文」と仮定し、COCA等のコーパスを用いて視覚動詞(look at, see, watch, behold)と聴覚動詞(listen to, hear)の実例を抽出し、各構文の意味的特徴を分析した。その結果、この構文環境でも各動詞が他の環境で示す意味特徴を保持していることが判明したため、pretty構文のto不定詞句は余剰的と見做す従来の観点は否定され、構文理論的分析方法の妥当性が実証された。 最終年度には、視覚動詞seeを基盤とする構文が明確さを表す形容詞(clear, evident, plain等)と共起する時、意味的に他の形容詞の事例とは一線を画したクラスターを成しているが、これらの事例における形容詞後続のto seeはfor all to seeという独自の慣用表現と関連するものであることを突き止め、この慣用表現for all to seeの実例を網羅的に調査した。その結果、clear等の叙述的な形容詞を伴った事例群はこの句の主要な4つの用法のうちの一つを形成しており、意味・形式の両面において、形容詞述語を含めたより大きな言語単位で独自の構文を形成している可能性を示唆するデータも得られた。 以上の成果は、言語事実の実態を正しく捉える思考・分析方法を提供する役割を構文理論が担うことを支持するものであると言える。
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