研究課題/領域番号 |
23720260
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
鈴木 寿子 お茶の水女子大学, 大学院人間文化創成科学研究科, リサーチフェロー (00598071)
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キーワード | 日本語教育 / 教師養成 / 協働 / 内省 / 対話 / 言語生態学 / 持続可能性日本語教育 / 自律 |
研究概要 |
本年度は、昨年度に引き続き「持続可能性教育としての日本語教師養成プログラム」の提示を目的として研究を行った。本プログラム作成のために、以下の4つの小研究を並行して進めた。①日本語教師志望の留学生の調査、②既存の教師養成プログラムの再検討、③学部生対象の持続可能性言語教育プログラム開発、④現職日本語教師の自律的研修プログラム開発である。①は日本の大学院に留学し日本語教育学を専攻する大学院生のインタビューを質的に分析した。②では平成13年から24年までお茶の水女子大学大学院で実施された共生日本語教育実習の内容の縦断的な変化を質的に分析した。③は複数の研究協力者(お茶の水女子大学教授岡崎眸氏ほか)と共にお茶の水女子大学で学部生対象のリベラル・アーツの科目として90分授業15回分のカリキュラム開発を行い、授業を実施したのち、受講生の意識調査を行った。④では異なる職場に所属する日本語教師が集まり、人生上、職業上の課題を継続的に考える実践を継続的に行い、日本語教師が自律的に研修できるプログラムの内容開発を行った。 ①から④のうち、①と②は現状把握および既存のプログラムの検討である。日本語教師を目指す留学生の現況や、既存の教師養成プログラムにおける到達点および課題を批判的に検討することによって、③や④で新規のプログラムの開発を行う際の土台的知見とした。 ③と④ではプログラム・デザインの骨組みを作成した。1)事前課題、2)議論・対話、3)ふり返りの3つのステップが受講生の思考の進化を促す上で効果があった。また、議論のデザインには「対話的問題提起学習」、「ロール・レタリング」が有効であった。 本年度の研究結果により、「持続可能性教育としての日本語教師養成プログラム」のデザインが形をなしてきた。本プログラムは日本語教師のみならず、隣接他領域のリーダー育成への援用も期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では「持続可能性教育としての日本語教師養成プログラム」の“短期版”と“長期版”の開発を目的としていた。これまでの2年間にわたっては、主に“長期版”のプログラムの充実を図った。平成23年度、24年度と連続して、半期にわたるプログラムを試行した。2年目にあたる24年度は、前年度の実践を改良する形で行った。さらに、1年以上継続する、より長期的な実践についても、自律的プログラムとして継続的研修を実施中である。 プログラム実施に当たり、研究上の必要性から、急きょ、現状把握および既存のプログラムの検討の研究計画を遂行した。これは、新規プログラムの開発にあたり、日本語教師志望の留学生の抱える問題及び、これまでの日本語教師養成プログラムが何を達成し、何を課題として残しているのかを把握する必要が出たためである。この2つの小研究については、データ収集及び分析を平成24年度にすべて終えている。その研究成果は、研究発表3件、査読付き論文3本(うち1本は審査中)の形に結実している。 平成24年度には、プログラム策定の研究計画に即して、学部生対象、および現職日本語教師を対象に実践を行い、データを収集した。データの分析は順調に進展している。現在までに3件の研究発表を世に問うた形である。上述のことから総合的に見て、研究はおおむね順調に進展しているということができよう。
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今後の研究の推進方策 |
1.本年度実施した実践に対する補足的調査・研究 本年度行った研究のうち、特に「研究実績の概要」欄で示した、④現職日本語教師の自律的研修プログラム開発に関して、継続的実践を行い、調査を継続する。本調査は平成24年4月から実践を開始し、現在も月1、2回のペースで実践を継続中である。本実践では今後も、日本語教師の実践上の課題に向き合い、克服する力を養成するで有効な自律型研修の内容、デザインの在り方を模索する。また、この実践において収集した録音、文字化したデータや、参加者である日本語教師のふり返り記録を質的に分析する。その結果を、言語生態学や成人学習論の知見から考察し、これまでに行われてきた日本語教師養成や研修の専攻研究の知見と合わせて検討する予定である。 2.研究計画の変更・次年度の実践に関する方策 当初予定していた海外実践・分析については、申請者と調査対象校における調査可能時期のズレから、変更を検討中であり、調整の段階に入っている。当初予定していた、中国の北京語言大学および大連理工大学から、台湾の新生医護管理専科学校へと変更を予定している。新生医護管理専科学校では、これまでのプログラム開発の結果をまとめ、「持続可能性教育としての日本語教師養成プログラム」の“短期版”として、1日で行うワークショップとしてまとめる。2013年8月に新生医護管理専科学校で行われる国際学術会議に参加し、現地の現職日本語教師対象の研修を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
1.データ収集・分析のための経費:勉強会や研究会、ワークショップなどで映像資料を上映するための機材(プロジェクター、スピーカーなど)が必要である。また、データの分析においては、主にデータの文字化について、研究補助者に対する謝金を使用予定である。 2.図書購入のための費用:「持続可能性教育としての日本語教師養成プログラム」のシラバス構築のために、教育学、経済学、政治学、社会学などの関連領域から最新の研究成果を得ることが不可欠である。そのための図書購入費を計上している。 3.海外実践・研究発表のための旅費:「今後の研究の推進方策」欄に記載した通り、平成25年8月に新生医護管理専科学校で行われる国際学術会議に参加を予定している。そのための旅費が必要である。 4.研究成果報告のための費用:最終年度にあたる本年度は、「持続可能性教育としての日本語教師養成プログラム」のために使用した教材や、研究成果をまとめ、研究成果報告書としてまとめる。発行のための経費が必要である。
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