研究課題/領域番号 |
23720267
|
研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
永井 涼子 山口大学, 大学教育機構, 講師 (10598759)
|
キーワード | 医療談話 / 福祉 / 専門日本語教育 |
研究概要 |
平成24年度は平成23年度に収録した談話データの個人情報処理・文字化作業を継続して行い、協力先に使用許可を得ると同時に、談話データを追加で収集し、新規の音声データの個人情報処理・文字化作業を行った。また、使用許可が得られた談話データに限り分析・考察し、研究発表を行った。 談話の収録は、新たに2つの病院、1つの介護施設の協力を得て行い、その音声データから個人情報を削除し、個人情報を伏せた形での文字化資料の作成を行った。特に病院の談話データには、新人看護師研修の談話や、看護師と患者のやりとりなど、昨年度収録したものとは異なる内容の談話が収録でき、研究対象の幅を広げられたという意義がある。新人看護師の研修場面は外国人看護師が先輩の日本人看護師から指導を受ける場合に役立つ談話構造などを知るために貴重なデータと言える。逆に数年勤務した後、外国人看護師が指導者の立場に立つ際にも有効な研究結果が得られると考えられる。患者と看護師のやりとりは即実践に応用できる貴重な談話資料としての意義がある。 また、既に病院や介護施設から使用が許可されているデータに限り、これまでのデータと合わせて分析および考察を行った。中でも看護の談話は「看護師による患者描写の諸特徴-引継ぎ報告「申し送り」談話を対象に-」、「看護師談話の理想と現実-モデル談話と実際の談話の比較から見えるもの-」というタイトルで研究発表を行った。前者では、看護師が患者を描写する際のストラテジーを複数の病院データから分析した。後者は日本人看護師向けのマニュアルの談話例と、類似した場面における実際の談話例を比較し、日本人向けマニュアルではどのようなストラテジーが見過ごされがちであるのかを明らかにした。 研究実施計画では平成24年度は「資料分析・考察(領域別)」「資料収集・文字化」を行うとなっており、研究実施計画に則った研究を行うことができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度は平成23年度に収録した談話データの文字化作業を継続して行い、協力先から使用許可を得るとともに、研究実施計画通り、「資料の分析・考察(領域別)」および、追加の「資料の収集・文字化」を中心に行ったため、現在までの達成度は順調であると言える。 資料の分析および考察に際しては、①複数の病院、介護施設を対象として資料を収集する横断的研究を行い、一般化につながる傾向を明らかにする、②スタッフが行う談話に焦点を当て、マニュアルには載っていない日本人が無意識に行っているストラテジーを明らかにする、という目的に応じた研究を行い、看護師談話についてはそれぞれの成果について研究発表を各1件(合計2件)行うことができた。 また追加の資料の収集・文字化についても、新人看護師研修の談話、看護師と患者のやりとりなどこれまで収集した談話内容とは異なる談話について収集することができ、横断的研究を行う上での貴重な資料収集を行うことができた。文字化作業は1人で行うため、時間はかかっているものの、着実に行っている。 一方で、平成24年度は介護施設の談話データについて、分析および考察は行ったものの、研究発表までには至らなかった。しかし、現在発表を応募中であり、平成25年度には研究の成果を発表することができると考えられるため、遅れているとは言えないと考えられる。 また、文字化作業が一部残っているデータもあるが、分析および考察と並行しながら作業を行い、論文投稿の際の資料として使用したいと考えているため、進捗状況はおおむね順調であると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
平成25年度は最終年度である。研究計画書では、平成24年度に引き続き研究発表および学会誌への投稿等を行い、研究成果を発表するとともに、これまでの研究成果をまとめ、看護および介護双方に共通する「ケアの日本語」としての特徴について分析および考察を行い、成果を発表することになっている。 これまでの研究の進捗状況はおおむね順調であるため、おおむね研究計画書通りに進められると考えられる。まずは平成24年度の残っている文字化作業を終了させる。そして既に平成24年度末に分析用データを送付し使用許可を検討してもらっている病院、介護施設を含め、談話収録の協力先を訪問し、使用についての条件等を打ち合わせ、使用許可を得る。それと同時に、特に介護領域の談話の分析および考察をすすめ、日本語教育関係の学会で発表する。さらに、看護領域の談話については、研究結果を医療コミュニケーション関係の学会で発表し、医療関係者の意見も取り入れて研究を進めていく。また、看護あるいは介護の領域別の研究結果についての学会誌投稿を日本語教育関係を中心に行う。 最後に、本研究は看護と介護の談話双方を同じ分析手法で同じ分析者が行うという点が他にはない大きな特徴の一つであると考えられるため、双方に共通する特徴を研究成果としてまとめ、発表する中で「ケアの日本語」という談話の領域の確立を提案する。これは平成23、24年度では達成できなかった、研究の目的③ 病院、介護施設の各傾向を得ると同時に、双方に共通した「ケアの日本語」の特徴、看護/介護特有の特徴も記述するにあたる。それにより、看護、介護とそれぞれの領域で対応していた日本語教育を「ケアの日本語」という視点から俯瞰し、双方の研究結果や実践を共有することで、外国人看護師・介護福祉士の日本語教育の改善を進めるという新しいあり方、つまり他領域の結果を援用する専門日本語教育の在り方を提案する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度の研究費は主に学会発表のための旅費、投稿論文作成時に参考文献として必要な図書の購入などに充てる。 研究発表先としては、応用言語学研究会(筑波大学)、社会言語科学会(神田外国語大学)、日本語教育方法研究会(立命館アジア太平洋大学)、医療コミュニケーション学会(広島大学)、日本語/日本語教育研究会(場所未定)などを検討中である。 また、談話資料の使用にかかる打合せの旅費として、広島、福岡、神戸、岡山に1件ずつ出張予定である。 投稿論文作成時の参考文献としては、医療コミュニケーションに関する英語の文献、介護の日本人向けのマニュアル本、看護および介護の日本語教科書の新刊などを中心に購入する予定である。医療コミュニケーションに関する英語の文献としては、外国人看護師を既に受け入れている国での教育やコミュニケーション研究の在り方をさらに広く把握するために必要である。介護の日本人向けのマニュアル本は、平成24年度、看護の談話研究で行ったように実際の談話例との比較を行い、共通点および相違点を明らかにすることで、「外国人」としての指導が必要な部分と「介護福祉士」として指導が必要な部分を明らかにすることができる。看護および介護の日本語教科書の新刊については、「ケアの日本語」としてまとめる際に必要な資料となる。
|