研究課題
本研究では、個人差の起因する要素の中でも、教室外で展開する「インフォーマルな学習実践」、つまり日々の生活の中や課外活動の中で偶発的におこるインタラクションを通して実現する学習の有無、またそのような実践の質と頻度が要因解明の大きな鍵となると考え、学習者の日々の言語活動を綿密な縦断的質的調査方法を用いて記述・分析し、「個人差」の実態とありかの解明を目指す。本研究の研究期間は、平成23 年度から25 年度までの3 年間とする。初年度と次年度は学習者の縦断的追跡調査に基づいた資料の集積を行う計画を立てている。初年度である平成23年度は、今までに集積していた日本語学習者らのインフォーマルな設定(例:クラス・タスクの合間の雑談など)の談話資料を参考資料・予備調査として分析を行い、7月英国・マンチェスター大学と2012年3月英国・ロンドンSOAS大学において研究発表を行なった。本年度は、2月に談話収集を継続すると共に本研究において分析方法として用いている会話分析、マルチモーダル分析の手法に関する知見とトレーニングを目的とした国際シンポジウムおよびワークショップを開催し、同分野の研究者がサウジ・アラビア、香港、デンマークなどより集いデータセッション及び意見交換を行なった(報告書を作成)。研究成果物としては、本年度6月にSecond Language Studiesという国内学術誌に学習者談話資料の一分析の考察に関する論文を掲載し、さらに3月末にひつじ書房より「コミュニケーション能力再考」をテーマに編著(愛知大学片岡邦好教授)と共に刊行するため、本研究の中間成果を報告した論文を提出した(2013年9月出版予定)。現在来年度出版予定の海外における編著本にも2本論文を投稿し、来年度中に出版される予定である。
3: やや遅れている
従来予定していた、日常生活における日本語使用の談話場面の録音録画の参加者がなかなか見つからず、予定通りの調査執行工程に比較すると遅れをとった。収集する方法を新たに設定し直すなどの努力を行い、場面設定など収録場面を雑談場面、お花見などの課外活動場面などにおいて録音・録画が年度末に成功した。
H23年度には、連続的な生活場面における日本語使用場面の資料収集が困難であり、調査対象である学習者らの参加が予想外に見込まれなかったため、H24年度は「インフォーマルな設定」を課外活動として調査者側がお膳立てをし、その場で展開する会話を収録する方法へと転換する。時間や場所に拘束されない課外活動のツールとして、facebookやWeb会議ツールといったICT(information communication technology)を用いて、学習者間で日本語を用いて雑談をする機会を定期的に設定する。次年度は、具体的には、1 各参加者の生活環境のエスノグラフィー(参与観察と収録した談話資料の分析)、2 学習者による学習過程ジャーナルの執筆(facebookやeポートフォリオを使用)3 音声またはビデオによる定期的な談話場面の録音・録画4 学習者との定期的なインタビューおよびフォーカスグループディスカッション(5回ほどを予定)を執行する。
ICTツールを利用した学習者間の会話資料を収集するために、Web会議ソフト、クラウドによるデータ保存と閲覧、および必要であればネットPCなどの機器の購入が必要となる。集積したデータの文字化と編集を行うため、RAを雇用し、データのアーカイブ化も同時に進行する。研究成果の発表の機会としては、海外への研究成果の発信として2012年9月と2013年4月に海外の学会において口頭発表を行う。また、国内の学会においても、2012年8月に開催される国際日本語教育学会でも発表を予定している。成果論文も2本執筆を計画しており、海外の学術誌に投稿を予定している。
すべて 2012 2011
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (2件) 図書 (1件)
Journal of Applied Linguistics
巻: 5(3) ページ: 243-272
日本語学
巻: 31(4) ページ: 36-50