20人の元留学生に対し、1回から4回にわたるインタビューを行い、日本で就職するという選択がライフストーリーにおいて持つ意味を中心に考察した。考察を通じ、「グローバル人材」として自らを位置づけて、日本社会に参加するプロセスを明らかにした。依然として難しいと言われる留学生の日本企業への就職であるが、内定をとれた留学生は、早期より就職対策の準備をし、就職活動を支える「重要な他者」が存在していることが多いことがわかった。 また、本来、日本社会へのゲートキーパーとなる「重要な他者」との就職活動を通じた交流で、就職を契機に日本社会へ参加できたという実感が形成されると同時に、就職活動を通じて「グローバル人材」としての「外国人」というアイデンティティも強く内面化する。そのアイデンティティ交渉は、日本社会における自分のポジショニングとして積極的に評価される一方、日本社会への境界意識となっているというジレンマも見られた。このジレンマから、日本企業における就労に限界を感じ、退職、帰国を選択する調査協力者も現れはじめている。 以上のことから、留学生への就職支援として大学に求められることは、「重要な他者」とのネットワーク形成の支援、多様なアイデンティティを認められるような包括的な教育などである。 以上の成果は、言語文化教育研究学会・研究集会、およびアカデミック・ジャパニーズ・グループ研究会において口頭発表により発表した。論文としては、くろしお出版から刊行される論集『日本語教育学としてのライフストーリー』(三代純平編)に成果の一部を収録している。 本調査を通じて、日本語教育学としてライフストーリーという研究方法をどのように考えるかという方法論への考察も進んだ。その成果として、前述の論集を編集することができた。
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