本研究は、第二言語習得研究の成果を基に考えられ、インプット理解の活動を中心とする「処理指導」の効果に関して、具体的にどのような項目において、その効果が期待できるのかという点を検証する目的で調査を行った。 調査については、先行研究では行われていない、日本語学習者のインプット処理ストラテジー使用の有無を検証するため、特に「最初の名詞原理」と「意味優先原理」の2つのストラテジーを対象とし、インプット理解の正確さと速さを測定する実験調査を行った。「最初の名詞原理」とは、文の最初の名詞を動作主だと処理するストラテジーで、「AはBに殴られた」という文で「Aが殴った」と理解してしまう可能性がある。「意味優先原理」は、文の格関係よりも、現実世界で実現可能性が高い意味に処理するストラテジーで、「子どもはお母さんに料理を作ってあげました」という文では、「お母さんが料理を作った」と理解する可能性がある。 実験調査に参加した学習者は38名で、日本語能力の違いによって、インプット処理ストラテジーの使用に異なった傾向がみられるかどうか分析を行った。 調査の結果、2つのインプット処理ストラテジーともに、日本語学習者のインプット理解に使用され、そのことで正しい意味理解を妨げている可能性があることが明らかになった。また、「意味優先原理」については、日本語能力が高くなるとストラテジー使用が見られなくなったが、「最初の名詞原理」については、日本語能力が高くなっても、ストラテジー使用によるインプットの誤った理解が継続してみられた。 今回の調査によって、日本語教育においても処理指導が有効である可能性が示唆されるが、今後は、日本語能力が上がっても誤った理解を引き起こす「最初の名詞原理」の使用が、処理指導によって解消されるかどうかを中心に指導の効果について検証を行いたい。
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