研究概要 |
本研究では、日本語を母語とする英語学習者を対象として、意見対立場面における様々な行動(調整方略)に焦点をあてて調査を行った。学習者と英語母語話者の間のやりとりを記録し、文字化した資料に基づいて談話分析を試みた。平成25年度に得られた主な成果は以下の2点である。 1.前年度、潜在的な意見対立場面として「褒め」とその応答の連鎖に着目した調査を行い、その成果を口頭にて発表した。その際に聴者からの質問やコメントにより有益な示唆を得ることができ、本年度はそれらに基づいて発表原稿に加筆・修正を行って論文としてまとめた(日本語用論学会第15回大会発表論文集, pp. 169-176)。一般的に、人は褒められると、謙遜(自分自身を称賛しない)と協調(褒め手に異議を唱えない)の兼ね合いをはかりながら応答する。当該の論文では、(1) 学習者の応答の特徴、(2) 母語話者による褒め→学習者による応答という発話連鎖の終結部の構造を明らかにした。その上で、(3) 母語話者との接触経験を重ねたことによる学習者の変化という観点から考察を加えた。 2.学習者と母語話者の間で誤解や不信が芽生え、それが交渉を経て解消されるまでの相互行為に着目した調査を行った。会話では、ある参加者による発話の内容や意図が別の参加者に正しく伝わらなかったり、伝わるものの信用されなかったりすることがある。そのような事例を抽出して質的に検討し、得られた知見を口頭発表および論文として報告した(社会言語科学会第32回大会発表論文集, pp. 58-61)。具体的には、学習者と母語話者の接触場面において (1) 誤解や不信がどのような要因によって生じるのかを明らかにした。また、(2) 誤解や不信の解消をはかる交渉の談話はどのような構造を持つのかという点について、類型化を試みた。
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