本研究では,日英語の照応表現の違いに焦点を当て,迅速に読むために必要な意味処理の深さを調べることを目的としている。具体的に、「照応処理の深さに影響する要因は何か(照応表現の種類,テキスト要因,読み手の要因など)」を明らかにするために,平成24年度は主に以下3点を扱った。 1. 照応表現の種類による困難度の比較:代名詞 it が「主格(それが)」として使用されるときと「目的格(それを)」として使用されるとき,it が前にある先行詞を指している「前方照応」と後に出てくるものを指す「後方照応」を比較した。 2. 照応理解の深さとテキスト要因の関係 ①「尺度の含意」との関係:条件節を含む文の処理において、代名詞 it を特定する際の確信度について、助動詞must と might を比較した。日本人大学生英語学習者がパソコン上で条件節を含む文24文を読み、it の後必ず設けられている( )にmust / might / doesn’t のいずれが最も適切であるかを回答した。② 動詞との関係:it や they / them など代名詞の処理においては、動詞が与える影響が大きいと考えられる。日本語では聴き手や読み手が明らかに特定できる時には代名詞が省略される(ゼロ照応)が,英語では通常この類の省略は容認されない。そのため、日本語では動詞特性との相互作用によりゼロ照応となるような英語の項目において it および they の処理を比較した。 3. 読み手の要因:照応理解と英語熟達度の関係には個人要因も関わることが考えられるため、1や2で扱った照応理解の成績と TOEIC-IP の成績の関係も調べた。
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