研究概要 |
本研究では、コミュニケーション重視の英語授業の実践を目指し、「タスクを中心とした言語活動」を日本の英語教育環境へ導入する準備として、以下の点について調査・検証を行った。 (1)対話形式のディスカッション・タスクにおけるタスク前計画時間の効果 (2)言語テスト環境における計画時間が与える効果 本研究者はこれまで、日本人英語学習者の英語運用が、タスク前計画時間の有無によってどのように変化するかを調査し、より習熟度の高い学習者の方が計画時間を与えることでより高度な第2言語運用を示す可能性を指摘した(Nitta, 2007)。しかし、学習者レベルの測定方法の妥当性、モノローグ形式のタスクを使用した等の点で、結論は限定的であった。本研究では、それらの点を改善し、海外経験がなく比較的英語スピーキング能力の低い日本人英語学習者が対話形式のタスクを用いた際に、計画時間の有無が与える影響について多角的に調査を行った。 研究の参加に同意した32名を二人一組で16のペアに分け設備のある部屋に来てもらい、ディスカッションタスクを用いたテストを実施し、録音したデータに対して(1)評価スコアのFACET分析、(2)第二言語運用分析、(3)会話分析を行った。また、テスト終了後に実施したアンケートの分析も行った。その結果、計画時間の有無がスピーキングタスクの運用に与える影響は、初級レベル学習者において必ずしも有効ではないことがわかった。さらに(3)の会話分析を用いた質的分析の結果、計画時間が与えられることで自然なターン・テイキングの機会が奪われてしまうケースが頻繁に観察された。この結果から、モノーローグ形式のタスクにおける計画時間の優位性とは異なり、ディスカッション形式の言語テストでは、計画時間を与えることでスピーキング能力が十分に引き出されない可能性があることがわかった。
|