平成24年度は、前年度に実施した質問紙調査(第1段階)の結果に基づき、TOEFL-PBTで380点前後の英語力を保持している学習者を主たる調査対象として、Cross-modal priming taskを実施した。研究の第2段階として、Shapiro and Hestvik (1995)などを基にして、日本人英語学習者が英語母語話者と同様、動詞句省略部分で省略された動詞句を再構築しているかを調べた。動詞句省略部分とそれより700ミリ秒前の位置で比較をしたが、いずれの位置でもプライミング効果は見られなかった。このことは、オフライン環境で時間をかければ動詞句省略文の意味解釈ができる初級日本人英語学習者でも、リアルタイムで英語母語話者のように再構築処理を行って文を理解することが難しいことを示唆している。 研究の第3段階では、第2段階の結果を基にして、外国語文理解処理に関わる諸要因を検討するために、実験課題を一部改めた。具体的には、プライミング効果を測る位置を、動詞句省略部分と、そこから500ミリ秒後の位置の2か所とした。これは、Williams (2006)などの、L2話者は語彙認知などの低次言語処理能力が自動化されていないため、統語処理や意味処理の効果が母語話者と比べて遅れて現れるという主張に基づくものである。第2段階と同程度の英語力を持つ日本人英語学習者を対象として実験を行ったところ、500ミリ秒後の位置でのみ、弱いながらもプライミング効果が見られた。これは、Williamsらが指摘するところと一致しており、語彙認知などが非自動的であることから、ある程度遅れが生じるものの、外国語学習者も、母語話者と同様、動詞句省略部分で再構築処理を試みているという可能性を示唆している。 以上2年間の研究結果をまとめたものは、国内の学術誌に投稿予定である。
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