本研究の目的は、広島において、被爆者が外国人を対象に英語によって証言を行う平和学習活動に着目し、被爆証言を外国人がどのように聞いて理解しているのかという(1)被爆証言の理解の実態、被爆者から聞いた被爆証言を帰国後にどのように他者に伝えているのかという(2)被爆証言の伝達の実態を明らかにすることである。 最終年度は、前年度までに収集した3種のデータ(被爆証言、追跡アンケート、伝達の場面の会話)のうち、特に同一の被爆証言を聴講した米国人学生の伝達の会話に対象をしぼり、被爆証言と比較を行った。伝達の会話における伝え手の全発話を文単位で区切り、前年度までの被爆証言と伝達の会話の言及内容の分類(12の話題カテゴリー)別に集計を行い、証言のどの内容をどのように友人に伝えているのかを分析した。 分析の結果、伝達の会話の特徴を2点指摘した。まず、伝え手は、証言者の体験に関する話題カテゴリーへの言及が多く、それに続いて主観的な解釈を述べる話題カテゴリーが多いという傾向が観察された。事実関係に言及したうえでその解釈を述べ、被爆証言の意味づけを行っていると考えられる。次に、特定の話題カテゴリーに集中的に言及する会話と複数の話題カテゴリーに言及する会話が観察された。2つの追跡調査のうち、追跡アンケート調査では質問項目に端的に回答しなければならないが、伝達の会話では被爆証言の内容の全てに言及する必要はなく、参加者が関心のある内容に言及していると考えられ、言及する話題カテゴリーの違いとなったと考えられる。また、会話例を質的に検討すると、言及内容が詳細化・多様化したり、元の被爆証言とは異なる内容も話されたりすることも明らかとなった。今後、被爆証言を国の友人に伝達して語りを再構築することで何が起きるのか、そこにどのような意味づけがあるのか、さらに分析を行う必要があると考える。
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