本研究は、これまで分析が不十分であった史跡や温泉をめぐる旅を題材に、近世・近代における観光地の形成過程を解明することを目的とした。研究方法は旅行者が記した記録(紀行文・道中日記)、及び温泉史料の収集と分析である。 旅行者の記録分析では、紀行文執筆者の学者と道中日記執筆者の庶民の間で旅に対する認識に相違がみられることが判明した。庶民の方が観光的な意識をより強く抱いていたのである。また、温泉に関しては、観光地化が進む以前の周辺状況を把握しようと試み、温泉の所属する村の近世における社会経済状況を分析した。こうした一連の作業により、観光地の形成過程を通時的に描き出す糸口を発見することができた。
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