本研究では研究の基礎となる史料蒐集を総合的に行った。国立公文書館所蔵内閣文庫の史料を調査蒐集することに最も重点を置いた。特に、十四代将軍徳川家茂に関しては薨去から葬送まで200点以上にのぼる史料があり、その内容は大名から出された悔やみ状、葬送惣奉行の書状、覚書、警備担当の役人や増上寺家茂廟の普請の役人による書付など多岐にわたった。これらの史料の多くは編纂される以前の原文書であり、葬送の実態を詳細に知り得た。近世武家社会の文書管理を考えるうえでも貴重な史料であった。宮内庁書陵部には公家側の史料に加え、幕府側の重要な史料も所蔵していた。大名家側の史料として、東京大学史料編纂所の宗家文書に五代綱吉から十四代家茂までを記録した一連の簿冊があった。人間文化研究機構国文学研究資料館では真田家文書・蜂須賀家文書などから関連史料を蒐集した。特に真田家文書には一件帳の他にも触廻状が多くあり、大名間での情報伝達について知ることができた。その他、京都大学、秋田県立公文書館の佐竹西家文書や佐竹家文書・東山文庫、国立国会図書館、茨城県立歴史館一橋家文書、埼玉県立文書館など国内の文書館や大学が所有する史料の調査を行った。以上の史料調査により、閲覧1598点、撮影1403点、複写62点、ウェブ取得55点の成果があった。当初予定していた明治大学、名古屋市蓬左文庫の尾張徳川家文書、学習院大学、東北大学狩野文庫の調査は叶わなかった。これにより徳川将軍家の葬送を研究するにあたり必要な史料を概ね蒐集できたといえる。 最終年度は研究成果報告書を出版した。本研究で収集した史料のうち重要と考える史料104点を翻刻掲載し、解題を執筆した。葬送惣奉行の任務、表と奥の関係など既存の研究では知られていなかった葬送の詳細な内容を具体的事例として公刊した。本研究成果を踏まえ、今後さらに具体的な葬送儀礼の研究につなげ得ると考える。
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