研究課題/領域番号 |
23720337
|
研究機関 | 大島商船高等専門学校 |
研究代表者 |
田口 由香 大島商船高等専門学校, その他部局等, 講師 (00390500)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | 日本史 / 近現代史 / 明治維新史 / イギリス / 長州藩 |
研究概要 |
平成23年度の研究の成果として、論文「長州出兵下における長州藩とイギリスの関係―イギリス側の視点を中心として―」(『大島商船高等専門学校紀要』第44号、2011年12月)を発表した。本研究の目的は、日英の史料を国家機関から個人レベルまで分析することで、幕末期の日本における国際関係を多角的な視点から解明することである。特にイギリスとの関係がみられる長州藩を対象とすることは本研究の目的を達成するうえで意義がある。本年度は、元治元年(1864)から慶応2年(1866)の長州出兵期間に焦点をあて、イギリス側を視点とした研究をすすめ、史料調査はイギリス国内を中心に行った。 本年度の研究成果の具体的内容としては、次の点を解明したことである。まず、伊藤博文にみられるような長州藩士によるイギリス公使への情報提供と、イギリス側が幕府と諸大名の対立が幕府の貿易独占によるものと認識していることである。諸大名は諸外国との貿易を望んでおり、外国人への敵対心も幕府の貿易独占が原因という情報を得ていた。そして、幕府と長州藩の対立にイギリス政府は中立方針をとっており、駐日公使を通じて在日の英国人に徹底しようとしたこと。また、日本の体制変革についても日本人による日本独自の方法で行われることを主張する意見がみられたことである。 本研究成果の意義としては、通説的には、長州出兵から王政復古に至る過程において、フランスによる幕府支持とイギリスによる長州藩支持という見方があるが、イギリス政府は中立方針をとっており、日本の体制変革にも介入しようとしていないことが明らかになったことである。 本研究成果の重要性としては、幕末期における国際関係において、イギリス側は日本との貿易には積極的な姿勢を示すのに対し、日本国内の政局には客観的な立場をとったことである。さらに多角的な分析を進めることで全体像を解明できると考える。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度の達成度について、概ね順調に進展していると言える。本研究の目的は、幕末期の日本における国際関係を多角的な視点から解明することであり、そのために、日本国内の史料とイギリス国内の史料を国家機関レベルから個人レベルまで分析する必要がある。長州藩とイギリスの関係では、元治元年(1864)の四国連合艦隊との講和を画期として、その前後にどのレベルにおいてどのような関係が構築されたのかを解明することを目的としている。 本年度は、元治元年から慶応2年(1866)の長州出兵期間に焦点をあて、英国駐日公使を中心にイギリス政府レベルの方針を分析した。長州出兵下には、ラザフォード・オールコック(Sir Rutherford Alcock)、ウィンチェスター(Winchestrer Charles Alexander)、ハリー・パークス(Sir Harry Smith Parkes)が駐日公使を務めた。駐日公使の報告書などイギリス側を視点とした研究を行ったため、史料調査はイギリス国内が中心になった。イギリスでは、おもにケンブリッジ大学図書館において史料調査を行った。同館では、英国駐日公使ハリー・パークスの往復書簡や報告書からなる「パークス文書」、公使館の通訳官を務めたアーネスト・サトウの蔵書からなる「サトウ蔵書」の調査を行い、関係史料を収集することができた。また、ケンブリッジ大学では、Proquest社との契約により、ウェブ版の「イギリス議会資料」を閲覧することができた。これらの史料と、これまでに収集していた英国公文書館(National Archives)所蔵のイギリス外務省文書とを併せることで、各時期の駐日公使の報告書や書簡の分析を行った。多角的な分析を行う本研究の達成度としては、イギリス政府レベルと政治家個人のレベルの考え方を解明することができた。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は、幕末期の日本における国際関係を多角的な視点から解明することであり、日本国内の史料とイギリス国内の史料を国家機関レベルから個人レベルまで分析するため、史料調査を行いながら研究を推進する必要がある。平成23年度は、駐日公使の報告書などイギリス側を視点とした研究を行ったため、イギリス国内において政府レベルを中心とした史料調査を行った。 今後の研究の推進方策としては、日英両国の各レベルの分析を行うため、イギリス国内の個人レベルの史料や日本国内の長州藩政府レベルの史料調査をすすめることである。イギリス国内の史料では、英国公文書館(National Archives)にはイギリス外務省文書のほか、外務事務次官ハモンドなどの書簡が所蔵されており、政府レベルと政府員個人レベルの分析を行うことができる。ケンブリッジ大学図書館には、23年度に調査した「パークス文書」、アーネスト・サトウの蔵書からなる「サトウ蔵書」のほか、「ジャーディン・マセソン商会文書」が所蔵されている。同文書には、長州藩の武器購入などにも関わったグラバー商会関係史料も含まれており、商人レベルの分析を行うことができる。また、英国海洋博物館(National Maritime Museum)には、イギリス海軍の司令長官ヘンリー・ケッペル(Sir Henry Keppel)の日記が所蔵されおり、海軍に関わる個人レベルの分析を行うことができる。 日本国内の史料では、長州藩史料を多数所蔵する山口県文書館を中心に調査をすすめる。同文書館には、文久3年(1863)年の攘夷決行と翌元治元年(1864)の長州藩と四国連合艦隊の講和に関わる「外国講和」(馬関戦争一件、毛利家文庫)などが所蔵されており、長州藩政府レベルの分析を行うことができる。以上のような史料調査とその分析によって、今後の研究を推進していく方策を考えている。
|
次年度の研究費の使用計画 |
次年度(24年度)の研究費の使用計画としては、おもにイギリス国内と日本国内の史料調査の旅費、また学会発表の旅費に使用することを計画している。本研究では、日英の史料を国家機関から個人レベルまで分析することで、幕末期の日本における国際関係を多角的な視点から解明することを目的としているため、史料調査の旅費が大部分を占めることになる。その他、史料の複写費や関係書籍の購入などに使用することを計画している。 平成23年度の研究費において、次年度に使用する予定の研究費が生じた状況としては、23年度はイギリス側を視点とした研究をすすめたため、史料調査がイギリス国内に限定されたことが挙げられる。また、研究の成果は論文において発表したため、学会発表の旅費などを使用することがなかった。よって、この繰越分は次年度(24年度)において、日本国内の史料調査と学会発表の旅費に使用することを予定している。 具体的な史料調査の旅費使用計画としては、イギリス国内の史料調査のため、2週間から3週間の間ロンドンとケンブリッジに滞在し、英国公文書館と英国海洋博物館、ケンブリッジ大学図書館を訪問することを予定している。日本国内の史料調査では、山口県文書館(山口市)に2回程度訪問することを予定している。また、学会発表では、6月17日に山口市で開催される山口県地方史学会大会、10月下旬に東広島市で開催される広島史学研究大会において発表することを予定している。以上のように、今後の研究を推進するため、研究費を使用することを計画している。
|