研究課題/領域番号 |
23720344
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
酒井 裕美 大阪大学, 言語文化研究科(研究院), 講師 (80547563)
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キーワード | 大韓民国 |
研究概要 |
本研究は、日朝関係における漁業問題をめぐる外交交渉の展開過程を分析することを通して、条約本文の規定自体を自国に有利に制定することには敢えて固執せず、条約の解釈、運用によって自国の利益を最大限に引き出そうとする朝鮮外交の独自的で動態的な構造を、より立体的に描き出そうとするものである。具体的には、日朝間において1883年に締結される「日本漁民取扱規則」(以後「取扱規則」と略す)と、1889年締結の「日本朝鮮両国通漁規則」(以後「通漁規則」と略す)について、それぞれの制定交渉過程、制定後の運用実態を明らかにすることを目的としている。 本年度は、昨年度に続き、関連史料の調査、収集を行った。5月と12月に、それぞれ韓国に出張し、ソウル大学校、国立中央図書館において、「取扱規則」に関連する統理交渉通商事務衙門文書を中心に調査、収集を実施した。 ところが、これらの史料を検討していく中で、この交渉過程においては、朝鮮がアメリカ、イギリスなど他国と結んだ条約における最恵国待遇に関連する問題を、どのように処理するのかが、大きな懸案事項となっていたことがわかった。筆者は以前、「最恵国待遇をめぐる朝鮮外交の展開過程-朝清商民水陸貿易章程成立以後を中心に」(『大阪大学世界言語研究センター論集』第6号、2011年)によって、朝鮮外交における最恵国待遇問題を扱ったことがあった。しかし、今回の史料検討を経て、朝鮮外交における最恵国待遇とは、「最恵国」という表現だけでは表し得ない、平等を追求するより広い概念として構想されていたのではないかとの着想を得た。ゆえに、本年度は若干回り道になったが、清、日本を含めて東アジア諸国が締結した条約における最恵国待遇規定の概念的な再整理を行いつつ、この問題を明確に論じることのできる朝米修好通商条約の最恵国待遇規定について、論考を準備した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
当初の計画において、本年度は「通漁規則」についてまでの史料調査、収集を終わらせ、検討を進める予定であったが、「取扱規則」関連史料の整理が未だ完了しておらず、「通漁規則」まで進めることができなかった。その理由は「研究実績の概要」に記したように、最恵国待遇問題について再検討する必要が生じたためである。
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今後の研究の推進方策 |
まず早急に最恵国待遇問題についての再検討を完成させ、「取扱規則」関連史料の整理を終えることが先決である。当初の計画では、平成25年度に「取扱規則」「通漁規則」双方についての論文を執筆することとしていた。遅れを取り戻すためにも、平成25年度は、「取扱規則」についての論文執筆と、「通漁規則」についての史料調査を終えることを目標としたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
「通漁規則」関連史料の調査、収集のため、韓国出張を行う。また、これまで漁業問題に関連しては、韓国の学会で研究発表を行えていないので、この課題を実施するためにも、韓国における学会出席が必要である。平成23年度、平成24年度とも、学外での委員を任命されていたため、夏季休暇に長期出張ができず、当初の計画に組み込んでいた、韓国における草書読解訓練も未だ実施できていない。平成25年度はこの計画も遂行する予定である。 一方、平成25年度も、韓国における外交資料集の刊行予定はかなり充実している。これらの購入にも、研究費を使用する計画である。
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