研究課題/領域番号 |
23720349
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
斉藤 涼子 学習院大学, 付置研究所, 研究員 (50599842)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 国際情報交流 / 労働運動史 / 宗教学 / ジェンダー |
研究概要 |
研究の基礎的作業として、文書史料の発掘および整理と検討を中心に行った。 本研究が分析対象としているのはソウルの工業地区におけるキリスト教会活動として知られる、産業宣教会である。当該年度は、同会の内部文書、報告書などの文書を分析することで、同会がどのような方針の下でどのような活動を展開し、発展したのかを、同会が発足した1950年代末を起点として、1960年代半ばまで丁寧に追跡した。 同時に、産業宣教会を通じて形成された、工場内の女性労働者によるキリスト教信徒サークルについても検討した。各サークルは工場を横断した連合組織を形成したが、この連合組織が発行した機関紙についても検討を加えることができた。 さらに、韓国以外の海外に所在する文書史料についても検討を加えた。 具体的にはハワイ大学内のCenter for Korean Studiesの図書館における宣教師関連史料の発掘と分析である。解放後の韓国におけるキリスト教会の発展には、米国の教会組織の影響が多大であったことを考慮すると、当研究所に所在する宣教師関連史料は本研究に重要な示唆を与えるものであった。当研究所には、McCune Paperと呼ばれる史料が所蔵されているが、これは米国人の宣教師親子二代に渡って残されたミッション関係史料である。そのため、作成年代は広く、植民地期朝鮮(1930年代)から、解放後韓国(1960年代)までの記録があり、長いスパンから、朝鮮半島におけるミッション事業について知見を得ることができた。 以上のような研究成果は、解放後の韓国における産業宣教会活動のみならず、韓国キリスト教会全体に関する史料発掘を兼ねることにもなり、特に米国における新資料の発掘は、本研究に一層の深まりを与えた。今後、本研究を展開するにあたって、基礎的な作業を固めるのに大いに意義ある成果を収めたと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画であった、研究の基礎的作業としての、文書史料の発掘は概ね順調に遂行されている。この計画進展は、前調査により、すでに史料の所在が明確だったことによるところが大きい。また、当初は予想していなかったハワイ大学における新史料の発掘は、当初の計画以上の進展といえる。 しかしながら、新資料の発掘によって、当初の予定よりも更に多岐にわたる史料を検討、分析する必要に迫られ、日本における韓国教会への関わりあいを示す史料を発掘、検討する作業が遅れがちになっている。また、現在までに検討した史料も1960年代半ばまでと中途な状況にある。こうした遅延は、当初の予定になかった、新史料の発掘と分析に時間を要したことから生じた結果であるが、新たな史料によって研究が深まることは結果として進展につながることでもあり、研究計画全体としてはおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
おおむね当初の計画どおりに研究が遂行されているため、今後も計画どおり推進することとする。 平成24年度以降は、これまでの成果を基礎として、オーラル・ヒストリーの書き残し作業を新たに行う。具体的には、韓国に調査に赴き、当時、産業宣教会の活動に参加あるいは関連した人々にインタビューを行うことで、彼(女)たちの自分史、生活史に迫ることを目的とする。インタビュー候補は、労働運動あるいは女性運動に関わった人びと、牧師・宣教師などの教会関係者である。労働者、運動者、宗教者それぞれに聞き取りを行うことで、工場生活や労働運動、教会活動のそれぞれの側面を検討し、当時の状況を多面的に分析することができる。 また、韓国、ハワイ、日本における文書史料の発掘、検討も引き続き行う。 すでに、聞き取り作業については、韓国の産業宣教会関係者に協力を快諾いただいており、関係者へのインタビューはもとより、産業宣教活動にゆかりのある場所などへのフィールドワークも計画している。また、労働運動関係者にも協力を仰いでいるところである。現在は相手方の都合を勘案しつつ、踏査日程を調整している。 文書史料の発掘については、ハワイ大Center for Korean Studiesの専門員に協力を快諾いただいている。韓国における文書史料発掘についても、踏査前の作業として、本研究に欠かせない史料が多数存在する民主化運動記念事業会のデジタルアーカイブから必要となる史料の選定を行なっている。以上の方策から、今後も順調な調査が望めると考える。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度研究費については、さらに研究を進展させるため、海外二ヶ所(ハワイ、韓国)への文書史料調査、聞取り調査、フィールドワークを予定していることから、旅費に多くの研究費を割くことを予定している。 おおよそ、ハワイ(滞在10日間程度)に30万円、韓国(滞在14日間程度)に20万円程度を研究費として計画している。また、国内調査(大阪など、次年度全体で7日間程度)におよそ10万円の費用を計上する。 物品費としては、聞き取り調査、フィールドワークの記録を残すため、ビデオカメラ、ICレコーダ、デジタルカメラ、ノート型小型PCなどの購入費として約30万円を計上する。さらに、朝鮮近現代史関連図書と史料の購入に15万円、謝金その他費に5万円の支出を見込んでいるが、これら費用の一部については、昨年度の未使用分からの使用を予定している。 次年度使用予定の未使用分研究費については、昨年度は、所属研究所のプロジェクトによる海外派遣から海外調査が達成できたため、海外旅費の発生がなかったことから生じている。今年度は史料発掘と聞き取り調査のため、海外調査を充実させる必要があることから、旅費、物品費(踏査に必要な物品の購入費)を多めに計上し、未使用分と合わせて使用する予定である。
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