研究課題/領域番号 |
23720349
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
斉藤 涼子 学習院大学, 付置研究所, 研究員 (50599842)
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キーワード | 国際研究者交流 / 労働運動史 / 宗教学 / ジェンダー |
研究概要 |
平成24年度までに得られた結果を基にして、更なる史料の発掘と整理、その分析に注力して研究を推進した。 当該年度は、前年度と同様、ハワイ大学コリア研究センターにおける史料調査と整理を推進し、植民地朝鮮から解放後韓国までの長いスパンにおけるキリスト教会関連資料を調査することができた。当該施設にある資料群は、父子二代にわたって朝鮮(韓国)宣教師をつとめたマッキューン家旧蔵資料であり、それらのほとんどは朝鮮社会状況とキリスト教活動に関係する資料である。植民地朝鮮における総督府への政治交渉を始め、民族運動、解放後韓国のミッション拡大事業など、20世紀初頭から1960年代までの朝鮮(韓国)におけるキリスト教会の役割について歴史的な経緯をより詳細に検討することができた。 また、当該年度には韓国へ文書資料調査とインタビュー調査に赴いた。文書資料についてはソウルの民主化運動記念事業会のアーカイブから労働運動関係資料を調査した。一方、聞き取り調査については、1960年代にソウルや仁川などの工業都市において製造業に従事していた労働者だった人々から、当時の労働状況や労働運動について、詳しい聞き取りを行うことができた。 現代韓国における労働史研究は未知の部分が多いため、実際の労働現場に携わった人々から、実体験に基づいた聞き取りができたのは、研究を大きく推進させた。複数人から聞き取りを行ったことで、企業規模の差異(大手企業か零細企業か等)によって労働の状況が異なることや、地域差(ソウルと仁川)によっても労働運動の形態が異なってくることがわかり、「生きた歴史」に近づくことによって新しい知見を得た。 以上の成果は、韓国社会におけるキリスト教会の役割の歴史性の検討、労働運動におけるキリスト教会の役割の検討と、労働者当人の口述による労働史検討という二つの課題を追求することができたと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初よりの計画であった文書史料の発掘は、平成24年度までの基礎作業を引き継ぎつつ順調に遂行されている。ハワイ大学コリア研究センターにおける韓国教会のミッション事業に関する資料、さらに韓国ソウルの民主化運動記念事業における労働運動関係資料の発掘と整理、検討は前年度以上に進められたことによって、研究がより進展している。また、前年度まで遅延していた聞き取り調査についても、当該年度に実施することができ、新しい知見を得るに至り、研究は順調に進展している。 しかしながら、前年度から新たに得た米国教会と韓国教会の影響関係という大きな分析枠組みによって研究を深化させることができた一方、日本教会と韓国教会の関わりや連帯関係というテーマについては文書資料を継続して収集するに留まり、整理と分析については遅延している。 これについては、当初の計画より遅延したものであるが、今後の研究の進展によって挽回可能な状況であり、新資料の発掘と聞き取り調査が進んでいることは、本研究の進展であるため、研究計画全体としてはおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる平成26年度は、今までの研究調査を推進しつつ、研究調査を発表することとする。 研究調査の推進は、ハワイ大学コリア研究センターにおいて収集した文書資料、韓国民主化運動記念事業会において収集した文書資料などの検討、そして、韓国における(1960-70年代当時)労働者、労働運動関係者への聞き取り調査を主にする。一方で、韓国教会と日本教会の連帯的な関わり合いについても文書資料を検討し、また現在でも連帯を続けている韓国、日本、そして在日教会の関係者に対しても可能な限り聞き取りを行い、研究テーマの発展と深まりを求める。 研究成果の発表については、すでに2013年9月に開かれた市民講座において、これまでの研究内容を報告し、社会への研究成果の還元を行うことができた。当該年度は以上の成果を基に博士論文の完成を推進する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究は当該年度中に文書資料発掘と聞き取り調査をすべて完了する計画であった。文書資料調査については、おおむね順調であった。一方、聞き取り調査に関しては、当該年度に2回の韓国への出張調査を考えており、8月と3月に調査に赴く計画であったが、聞き取り対象者の都合、および健康上の理由から3月の調査が困難となり、次年度にこの調査をあらためて計画せざるを得なくなった。本研究が聞き取りの対象とするのは、いずれも高齢の域に達している人々であり、調査に際しては、当人の健康状態について注意が必要である。そのため、3月に計画していた出張旅費について次年度の使用とせざるを得なかったためである。 次年度の研究費は、上記理由に記したように、当該年度に中断した聞き取り調査の再開のため、韓国への出張旅費として主に使用する計画である。また、次年度は最終年度であり、本研究の区切りであるため、博士論文の執筆に必要な資料収集と調査はすべて完了させなければならない。 以上の事情から、調査先である韓国への出張滞在費(およそ14日間)として、次年度使用分を充当する計画である。
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