研究課題/領域番号 |
23720353
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
野田 仁 早稲田大学, イスラーム地域研究機構, 講師 (00549420)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | 中央アジア / ロシア / 新疆 / 国際関係史 / 民族 |
研究概要 |
本研究は、現在の中国新疆ウイグル自治区北部のイリ(伊犂)地方の歴史に着目し、19世紀後半~20世紀初頭の露清帝国の文書史料(おもにロシア側はカザフスタンおよびロシア、清朝側は北京および台北の各機関に所蔵される未公刊文書)を調査・分析し、すでに公刊されているロシア・清朝の歴史史料とも比較しながら、イリ地方を中心とする中央アジア諸集団の紛争解決の事例と、帝国側の多民族統合・統治のために施された政策との相関を検討しようとするものである。それにより、近代中央アジアにおける複雑な多民族社会において発生する諸問題を住民がどのように解決しようとしていたのか、また、統治側であるロシア帝国が、あるいは同地方の中国への返還後は清朝が、どのように異民族間の紛争にかかわり得たのかを考察し、近代の多民族社会における社会統合の問題を解き明かすことを目的としている。初年度にあたる今年度は、イリ地方の諸集団の間でおもに紛争の原因となっていた土地所有・境界線の問題を考察するために、各民族集団がそれぞれどのような規模で遊牧ないし農業を展開し、どこに遊牧地または農地を持っていたのかを考察した。イリ地方の諸集団の動向について改めて整理を行い、国際シンポジウムにおける口頭報告を行った。さらに、これまで収集してきたロシア帝国文書に加え、イリ地方が清朝の統治下にあった18世紀後半以降の中国側の文献、文書史料の整理を行った。また、ロシア帝国における多民族統治や異民族支配については、帝政ロシア時代の出版物の整理も必要になるが、この点について、北海道大学図書館およびスラブ研究センターにおいて史料調査を行った。これらの作業の結果、とくにカザフ人の生業である遊牧・牧畜について、移動の実態、19世紀における変容、遊牧地の展開の規模にかんして具体像を見出すことができたと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
史料収集・文献調査を行い、またそれらの内容を分析することを通じて、本研究の基礎となる各民族集団の生業・土地所有の状況が明らかになり、次年度以降の研究遂行に向けて必要な達成度を得ることができたため。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に行った作業を踏まえて、ロシア統治時代イリ地方の裁判事例について史料を収集し、民族間関係が顕れる場となった紛争について集中的に考察する予定である。この作業のために、関連する文書史料を所蔵しているカザフスタン国立中央文書館における調査を計画する。また、イリ地方の各集団の生業とその規模・範囲に関連して、P. P. Rumiantsevらが20世紀初頭に収集したイリ地方やこの地域を統括していたセミレチエ州にかかわる統計資料なども有効であると考えられる。帝政ロシア時代の統計的資料の一部は『トルキスタン集成Turkestanskii sbornik』として整理されたものが、京都大学地域研究統合情報センターに将来されており、調査・閲覧により情報を収集する。また北海道大学図書館およびスラブ研究センターにおける調査も継続して行い、とくにロシア・旧ソ連の学術雑誌・文献についてフォローする。
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次年度の研究費の使用計画 |
上記のように国外では、カザフスタン共和国、国内では京都大学・北海道大学に所蔵される関連史料・文献調査のための旅費の支出を予定している。またひきつづき、和洋書の関連研究文献を購入するための物品費の支出を予定している。
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