研究課題/領域番号 |
23720354
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研究機関 | 神奈川大学 |
研究代表者 |
渡辺 美季 神奈川大学, 外国語学部, 助教 (60548642)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | 琉球 / 自意識 / 中国 / 日本 / 家譜 |
研究概要 |
本研究は近世期(1609~1879年)の琉球が、「中国・日本への『臣従』」と「自意識の強化」を同時に進行させた事実に着目し、この時期の琉球王国の自意識の在り方と中国・日本との国際関係との相関を多角的に検討するものである。その目的は、中国と日本に異なる形で臣従し、そこから生じる諸矛盾に対応しつつも、比較的安定的に両国の狭間に存在し続けた近世琉球の社会構造、ひいては東アジア国際関係の運営・維持の構造の一端を、王国を支える人々の「自意識」の在り方から解明し、琉球史研究および近世東アジアの国際関係史研究に新たな視点を提示することである。 代表者は、2009~2010年度に受けた科学研究費「家譜から見た近世琉球の国際関係と東アジア」において、近世琉球の家譜(系譜)の精査・分析により、(1)王府が主導した王国の自意識が、琉球社会内部(個々人/各地域)でどのように消化され、多様化し、いかなる影響力を持ったのか、(2)またこの自意識は当時の琉球の国際的立場―中・日への「臣従」―とどのような相関性を有していたのか、といった諸点を明らかにすることが可能になり、近世琉球の自意識の全体像を多角的に解明し得るのではないかという着想に至った。 この目的と着想に沿って、本年度は琉球家譜の序文(一族の由緒や先祖の功績が記され、個人や家の自意識がうかがえることが多い)を調査・収集し、内容別に整理して中国・日本との関係が反映されているものを抽出する作業を行った。抽出した序文に対応する家譜本文を検討し、自意識の形成と実際の中国・日本との接触・交流・外交の関係性を考察し、併せて王府が描く自意識との関係性も考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
沖縄本島を中心とした家譜を最も多く所蔵している那覇市歴史文化博物館所蔵の家譜序文の調査・整理をほぼ終了することができた。またそれらの序文と関連史料の内容分析によって得られた成果の一部を、論文二本にまとめ発表した。さらに近世琉球の自意識を研究する上で非常に有益な示唆に富むペンシルバニア州立大学准教授グレゴリー・スミッツ氏の著書"Visions of Ryukyu: Identity and Ideology in Early-Modern Thought and Politics"(University of Hawaii Press, 1999)を翻訳・出版し、近世琉球の自意識と中国・日本との国際関係の相関について理解を深めた。 なお当初は海外における国際学会(第13回中琉歴史関係国際学術会議)にて研究成果の一部を発表する予定であったが、体調不良によりやむなく参加を断念した。その後、当該の学会誌に対して学会にて発表予定であった論文を投稿し、現在査読中である。
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今後の研究の推進方策 |
那覇市歴史文化博物館所蔵の家譜関連史料の収集を行うほか、主に離島部の家譜、すなわち先島家譜(宮古・八重山に戸籍を持つ一族の家譜)・久米島家譜(久米島に戸籍を持つ一族の家譜)および関連史料の調査・収集・分析を行う。 特に豊富な家譜および関連史料を所蔵しているにもかかわらず、まだその大半が未刊行で十分に研究に活用されていない石垣市立八重山博物館における調査を重点的に実施したい。これによって得られた周辺離島の家譜に見られる自意識の在り方を、中国・日本との関係性に応じて整理し、本島家譜に見られる自意識の在り方と比較しつつ、25年度以降の作業の方向性(何を重点的に分析・考察するか)を定めたい。 また近世琉球と密接な関係にあった鹿児島に関しても、家譜史料を裏付ける琉日関係史料を調査・収集する予定である。 なおこれらの諸段階で得られた研究成果の一部は、海外・国内における会議・学会誌等により公表する。
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次年度の研究費の使用計画 |
1.那覇市歴史文化博物館所蔵・国宝尚家文書の中に、家譜史料を裏づける有益な史料が多々あることが判明したので、それらの調査と複製収集を行う。2.本島・離島の家譜および関連史料・史跡の調査を行う。3.研究成果の一部を発表する際の校正を専門家に依頼する。4.その他、研究に必要な資料・文具などを随時購入する。
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