本研究の目的は、(1)朝鮮時代の朝鮮半島における水陸交通路を地図上に復元し、(2)当時の重要な交通手段であった船舶とその運用体系を考究するとともに、(3)これら交通路および交通手段を利用したヒトとモノの移動の実態を明らかにすることにある。最終年度にあたる本年度は、前年度から継続してきた作業を継続するとともに、特に朝鮮時代にヒトとモノの流通の大動脈であった漢江の津渡についての研究を進め、その成果を論文として公表した。 本年度に進めた作業は、大きく次の①~③である。 ①朝鮮歴史地理資料の調査:主として韓国・日本で刊行されている前近代朝鮮の古地図資料、朝鮮時代の地誌資料、また、国内外における朝鮮歴史地理関連資料の所蔵調査を進めつつ、既刊資料の収集、分析を行った。 ②地名の収集と分析:朝鮮時代以降の地名を収集し、資料別・時期別の比較対照作業を進めた。朝鮮の地名は、様々な同音異字表記がなされる上に、固有語を漢字で音訳した場合と意訳した場合によっても表記に大きな違いがある。『新増東国輿地勝覧』(16世紀)、『輿地図書』(18世紀)、『大東地志』(19世紀)の三地理書にみえる地名の収集、比較対照に加え、18~19世紀に製作された地図(43種)に現れる地名の収集、分析を進めた。 ③朝鮮伝統船の研究:朝鮮時代の絵画資料のほか、植民地期の朝鮮総督府による調査資料、写真資料等を収集、分析した。これまで知られていなかった朝鮮通信使が使用した船を描いたとみられる絵画資料の所在が確認できたため、これに対する調査を行った。
|