研究課題/領域番号 |
23720361
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
藤崎 衛 東京大学, 人文社会系研究科, 助教 (50503869)
|
キーワード | 教皇庁 / 中世 / ローマ |
研究概要 |
平成24年度は、教皇庁内の慈善組織に関する研究において論文の形で成果を上げるとともに、中世の教皇庁研究の歴史学的意義についての論考を発表することができた。いずれも、前年度からの調査の積み重ねが実ったものであり、先行研究と近年の研究動向を踏まえたものである。 まず、「中世教皇庁の慈善施設―施与局と救護院」『地中海学研究』XXXV号(2012年)75-94頁において、教皇庁がイタリアのローマからフランスのアヴィニョンに移転する14世紀初頭までの教皇庁の慈善組織として、施与局と救護院を取り上げて考察を加えた。貧者に施しをする施与活動自体はキリスト教の歴史と同じだけの歴史があるはずだが、専門化された組織とスタッフが明確に史料に現れるのはインノケンティウス3世(在位1198-1216年)の頃からである。この組織が独自の会計管理を行っていた点などを浮かび上がらせた。他方で、13世紀に教皇庁に直属する救護院としてローマの聖霊救護院と移動する教皇庁につねに伴った聖アントニウス救護院などを取り上げて、その活動スタッフの給養の実態の解明を行った。 次に、「ヨーロッパ中世における教皇庁の成立と発展」『歴史と地理』第661号(世界史の研究 234号)(2013年2月)54-58頁において、組織としての教皇庁が姿を現したのが、古代ローマ世界ではなく中世においてであったことを論じた。枢機卿団や諸部局の形成といった組織化の進展の様子とその背景、研究の展望を記した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
教皇庁の慈善組織についての論文を査読付きの学術雑誌に発表し、14世紀初頭までの教皇庁の慈善組織として施与局と救護院を取り上げて、その役割と意義について考察を加えることができた。また、中世における教皇庁の成立と発展に関する研究紹介を学術雑誌上で行い、中世教皇庁研究の歴史学的位置づけを明確に提示することができた。以上の進展状況を踏まえると、本研究は、設定した目的の達成に向けておおむね計画通りに進展していると言うことができる。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究の最終的な総括を行うことが最終年度における最大の目的である。そのために、14世紀初頭までの時間的推移の中における教皇庁の行政組織の編成過程を一つの著作の形にまとめ上げる。総括に際しては、教皇官房・文書局・裁判所など各部局について、分量的にもアプローチの方法的にも、バランスが取れたものにすることを特に心がける。 また、内容の実証性を高めるために、海外の文書館でのオリジナル史料の確認作業を実施する。 研究の成果は、上記の単著としてだけでなく、いくつかの論文にまとめ、次年度または次々年度に発表する予定である。
|
次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費は、研究の遂行に必要な図書の購入や論文の複写など文献収集費用、海外での調査研究や学会・研究会での発表、研究打ち合わせなどにかかる出張旅費、史料の整理など単純労務や論文校閲等にかかる謝金に主に用いるものとして計画している。 文献の収集に関しては、すでに基本的な史料類や研究書は揃えたが、最新の研究文献や隣接する分野の文献を充実させる。旅費については、主として、教皇庁諸部局の解明に必要な行政文書を調査するための、イタリア・ローマ等への調査旅行に充てる。
|