平成25年度は、最終年度として中世教皇庁の行政組織の全般的な編成を総括する作業に取り組んだ。 教皇庁の各部局の組織や役人、さらに教皇の身辺の世話をする奉公人(家人)についてその役割や俸給について記した「教皇庁構成員便覧」とでもいうべき文書(14世紀初頭に成立)を校訂しつつ詳細に検討することで、全体像の解明を進めた。その成果は、博士論文を改稿した著書『中世教皇庁の成立と展開』として公刊された。ここでは教皇庁の空間的移動と組織・制度との関わりについても追究し、密接な関連性があることを認めた。 研究会や学会でも研究成果を発表した。6月には都市史研究会等が主催する研究会において「中世ローマの都市空間」と題する発表をおこなった。中世ローマの都市史を俯瞰しつつ、教皇庁が所在するがゆえに現出したローマの教区上の特殊性を指摘することができた。また、12月には九州史学会で「教皇使節活動の意図と実態―12、13世紀を中心に―」と題する発表をおこない、研究史及び近年の研究動向を検討し、今後の研究の可能性を論じた。特に、カペッラヌスという教皇の側近集団が教皇使節活動において果たした重要な意義を指摘した。これら二件の発表は、前者が教皇庁制度の空間的コンテクストの把握の試みであるという点で、後者が教皇庁の行政組織と密接に関わりつつも、固定的な部局の枠組みに収まらない制度の研究であるという点で、それぞれ今後の新たな研究の展開への足がかりとなった。
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