研究課題/領域番号 |
23720364
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
中澤 達哉 福井大学, 教育地域科学部, 准教授 (60350378)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 国際情報交流 / ハンガリー / スロヴァキア / ジャコバン主義 / 共和主義 |
研究概要 |
本研究は、1790年代のハンガリーにおける初期ジャコバン主義の生成と展開を、ジャコバン主義の主たる理論家イグナーツとハイノーツィの「王のいる共和政」論に焦点を当てながら、中世後期以来のハンガリーの共和主義的伝統との関連において解明することを目的としている。 この目的を達成するために、初年度にあたる平成23年度は以下の2点((1)方法論的な分析枠の構築、(2)実証研究を進めるための史料収集とその分析)を主眼とした。いずれも、平成23年9月に行ったハンガリー共和国中央ヨーロッパ大学歴史学部、同国国立文書館およびスロヴァキア共和国スロヴァキア科学アカデミー歴史学研究所への出張において、本研究に不可欠な史料・研究文献を収集することによって、概ね達成することができた。 ハンガリーおよびスロヴァキア出張後は、収集した史資料の解読に努めた。特にハンガリー国立文書館で入手した史料十数点は、初期ジャコバン主義の規模や活動の実態など、その全容を把握するために不可欠な貴重史料群であった。なかでもこれまで注目されなかった史料「ハンガリーの為の新たな国制の提案」(1793年夏)で展開されている「王のいる共和政」論の骨格、つまり、その中世後期ハンガリー共和主義的伝統との位相を解明することができた。すなわち、フランス革命最中の1793年1月のルイ16世処刑以後も「王のいる共和政」論を一貫して主張した初期ジャコバン主義者は、その思想的淵源を中世後期の共和主義に定めており、合意に基づく身分制的君主制を理想としていたことが判明したのである。しかしその後、1793年末のフランス革命軍の反攻(ナポレオンのトゥーロン奪還)といった国際情勢の変化やハプスブルク朝の政治の変化とを受けて、1794年夏になってようやくジャコバン主義者は「王のいない共和政」論、つまり政治的革命主義へと転換したのである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記「研究実績の概要」でも示したように、平成23年9月のハンガリー出張時にハンガリー国立文書館において本研究に不可欠な貴重史料十数点を入手できたほか、さらに、スロヴァキア科学アカデミー歴史学研究所ではハンガリー・ジャコバン主義関連のハンガリー語・スロヴァキア語文献群を複写することができた。これらの重要な史資料を夏の時点で収集し終えていたことが本研究の順調な進展に大いに寄与した。また、研究開始後から出張前の数カ月の間の予備的調査においてすでに、研究に必要な史資料の所在についてほぼ見当がついていたことも作業の効率化に有利に働いたといえる。日本の夏期休業と、現地の文書館の夏期開館時期とをうまくあわせて出張を行ったこともやはり大きかった。 また、帰国後の史資料の解読にあたっては、ハンガリー王国近世史とジャコバン主義問題に精通したハンガリー中央ヨーロッパ大学のバラージュ・トレンチェーニ准教授とスロヴァキア科学アカデミー歴史学研究所のエヴァ・コヴァルスカー主任研究員およびミラン・ポドリマウスキー主任研究員に、本研究の分析枠について助言を主とする研究協力を仰ぐことができた。これら現地の第一線級の歴史家たちが本研究を補助する役割を果たしてくれたことは、研究の進捗上頗る大きな意味があった。 このように本研究は順調に進展しているが、唯一、研究計画に十分に沿えなかった点としては、ジャコバン主義の影響が及んだハンガリー王国内のクロアチア人地域およびドイツ人地域の動向を扱うクロアチア語文献とドイツ語文献の収集がやや十分ではなかったということである。しかしこれらの二次文献の収集の問題は、本年度の出張を通じて容易に解消されるであろう。 以上から本研究は、若干の二次文献資料の不足はあるものの、不測の事態もなく、当初の計画に沿って概して順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、初期ジャコバン主義の生成と展開に関する作業の総仕上げ作業を行う。これによって、ジャコバン主義のヨーロッパ的展開の詳細と近代共和主義の多様な形態が最終的に確認されることになるであろう。年度の後半には、以上の史料分析を通じて得られた成果を、逐次、学会報告や学術論文の形で発表していく予定である。本研究は、いまだ全容が解明されていないヨーロッパ各地のジャコバン主義の総合的把握に資するはずであり、ひいては、「王のいる共和政」という近代ヨーロッパ共和主義における新たな側面の通時的・動態的把握をも可能とするだろう。本年度の総仕上げによって、ハンガリーという個別事例から、ヨーロッパ共和政史研究に新地平を拓くことができるものと予想される。 その実現のための今年度の具体的方策として、まず前年度に収集しきれなかった二次文献を補完すべく、夏期ないし秋期にスロヴァキア科学アカデミー歴史学研究所図書館に1週間程度の出張をする(図書館開館時期にあわせて出張時期を決定する)。旧ハンガリー王国北部(現在のスロヴァキア共和国)は、ジャコバン主義運動が最も盛んであった地域のひとつであり、旧王国内各地のジャコバン主義研究の中心的役割を果たしてきた。スロヴァキア科学アカデミー歴史学研究所図書館には、ジャコバン主義運動に関する王国内の各民族語での研究文献が多数所蔵されている。 また、スロヴァキア出張と同時期に、研究打合せのため、スロヴァキアの首都ブラチスラヴァから鉄道で4時間ほどの隣国ハンガリー中央ヨーロッパ大学歴史学部に出張し1週間程度の研究滞在を計画している。研究成果発表を前にしたトレンチェーニ准教授との分析枠に関する最終的な打合せであり、本研究に欠かせないものである。 二次文献の収集と打合せを完了させた後、本研究をまとめ、その成果を複数の雑誌に投稿し、さらに学会にて研究報告を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
前年度は、外国出張が当初の予定の3週間から学務により10日ほどに短縮したため出張旅費が想定を下回った。このほか、出張時には関連文献の(購入ではなく)複写がほとんどであったため複写したその膨大な史資料の運搬にのみ費用がかかった。これらの理由から、結果的に科研費を大幅に節約して使用することはできたが、残額は比較的高めの189,382円となった。 今年度は、前年度の残額を踏まえて以下のような使用計画とする。夏期ないし秋期に約2週間ほどスロヴァキアおよびハンガリーに出張する。出張前半はスロヴァキア科学アカデミー歴史学研究所図書館にて1週間程度、各民族語の不足文献の収集を行う。後半にはハンガリー中央ヨーロッパ大学での研究打合せを目的として1週間程度滞在する。この外国出張旅費として40万円のほか、本研究に必要な現地での書籍の購入費・運搬費として10万円、研究成果発表費用(学会誌投稿料、研究成果を発表するための本研究専用のHP作成費、外国語での成果発表のための翻訳代、文房具代など)として189,382円を計上する。 なお、研究施設・設備については、研究代表者の所属研究機関とその現有設備を引き続き使用する。新たな設備は必要ないため、本年度も設備備品費を計上する予定はない。
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