研究課題/領域番号 |
23720366
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
森 貴子 愛媛大学, 教育学部, 准教授 (10346661)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 西洋史 / アングロ・サクソン期イングランド / 文書史料 / 法典 / 集会 / 王国統治 |
研究概要 |
本研究は、アングロ・サクソン期社会の展開を、人々の恊働行為から形成されるネットワークに着目して追求しようとするものである。具体的には、紛争解決の場となった集会(裁判集会)に注目し、そこでの関係の有り方/結び方を浮き彫りにすることで、社会秩序の構築における当該社会の特質を明らかにしたい。 平成23年度は、その手始めとして、本研究の重要な素材である法典の史料的性格を見極めるため、先行研究の整理に努めた。その結果、最近では、法典の具体的内容のみならず、作成背景や同時代での利用状況および同時代人による認識に至るまでが検討対象とされていること、そしてそこから、法典を史料として解釈していく際の基本姿勢に関わる、多くの貴重な指摘がなされていることが判明した(この作業は、「アングロ・サクソン期イングランドにおける「王の法典」の史料的性格―P・ウォーモルドの研究を中心に―」としてまとめた)。本研究でも、史料論の視角から生み出された知見を活かしつつ、当時の社会的文脈の中で法典を理解するように心がけたいと考えている。 また、大陸と比較した場合にイングランド的特徴をよく示すものとして、「托身」commendationに着目し、その研究の現状を探った。従来、「托身」は領主権力ひいては領主裁判権への従属を示し、その発展は分権的統治体制に帰結すると考えられてきたが、イングランドに関しては、自由人の「托身」によって生じる領主権は王権の裁判メカニズムに密接に統合されて機能していたことが、最近とくに強く主張されてきている。「托身」に関しては事例(地域)が限定されているため、本研究に本格的に取り入れることは難しいが、封建制をはじめとする従来の枠組みでは把握しきれない人的結合の一類型として、研究の進展に注目し続けたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
アングロ・サクソン期における地域共同体の活動そして王権によるその統治に関して、本格的に考察することは、研究代表者にとっても新たな試みである。そのため、研究史の回顧に相当の時間を費やすことになり、史料分析を予定のように進めることができなかった。 研究動向の整理に関しては、ことに人々の集まりや王の関与が際立つ、紛争解決のための集会(裁判集会)の具体的事例研究、あるいは法典などの史料論研究について、最新の業績をある程度は把握することができたと思っている。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度の作業を基礎に、史料分析を進める。ミッドランド西部に伝来する文書史料、聖人伝やドゥームズデイ・ブックの分析から、集会の事例を抽出し、いくつかの可能な例についてはその背景・事情やレベル(在地的集会か、あるいはより高次の集会か)を探る。こうした作業により、各々の場面によって形成される人的結合のあり方を例示し、変動を繰りかえす動態的なシステムとしての地域を浮き彫りにする。 つぎに、王権をはじめとする諸権力と地域との関係を明らかにするため、王権と地域が出会う場としての高次の集会(裁判集会も含む)に注目し、王権による地域との関わり方を考察する。その際、諸王の発布した法典での地域の位置づけ(州shireやその下部組織hundredとして現れ、特に裁判における役割などが記載されている)と、文書史料から浮かび上がってくる両者の関わり方をすりあわせることで、王権と地域との関係の実態を把握する。 また、検討対象とする文書の史料的価値を見極めるため、中世初期社会における文書の役割や意味そしてその変容について、考察を深める(例えば、9世紀以降に登場する複数宛文書カイログラフをめぐる史料論的研究など)。ここではオリジナル史料(一葉文書や文書集成原本)にも目を向ける必要があるので、イギリスを訪れて作業を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
「現在までの達成度」欄でも説明した通り、平成23年度は史料分析に本格的に取り掛かることができなかった。そのため、一次史料の確認のために予定していたイギリス訪問も実行できず、計上していた渡航費用が次年度のために残されている。 この遅れを取り戻すためにも、平成24年度のイギリス滞在を充実したものとしたいので、主として海外旅費に加える形で、研究費を有効に使いたいと考えている。
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