本研究のテーマは、アングロ・サクソン期社会の展開を、人々の恊働行為から形成されるネットワークに着目して追求しようとするものである。そのために鍵となる研究対象として訴訟に注目し、そこで取り結ばれる人間関係を可能な限り再現することで、王権や親族関係だけでなく、領主権そして地域社会の絡み合う、立体的な社会構造を描写したいと考えた。 平成25年度は、当初の目的である史料分析を進めたが、その過程で、文書をはじめとする限られた史料をより有効に活用するには、射程をさらに広げる必要があると感じた。そのため、裁判も含めた「集会」に関する研究動向を摂取することとした。結果として、 (1)考古資料と地名学の利用から、集会の具体的な立地についての研究が進められるべきであること(2)賢人会議witenagemotをはじめとする高次の政治的集会が、近年の「アングロ・サクソン末期国家」論を相対化する可能性があること(3)在地での集会は、その時々で、国王を含めた人間関係を活用しながら、独自のリズムで進められていること、などの論点が明らかになった。 また、諸法典での規定とそれ以外の史料から再構成された裁判集会の比較から、中世初期の訴訟プロセスの実態解明に寄与する可能性にも気づくことができた(例えば、訴訟をどこに持ち込むかはその時々の個別的事情に影響されること、そのさい縁故が極めて重要であること、判決は絶対的なものなどではなく、しばしば変更されていること、等々。これらは古典的研究での主張とはかなり異なっており、中世初期の紛争解決をめぐって新たなイメージを確立できる可能性がある)。この成果は「中世初期イングランドの集会をめぐって」とのタイトルで、紀要論文として発表する。
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