研究課題/領域番号 |
23720370
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研究機関 | 聖学院大学 |
研究代表者 |
田中 佳 聖学院大学, 政治経済学部, 講師 (70586312)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 国際情報交流(フランス) |
研究概要 |
本研究課題は、18世紀フランスの美術館に認められるナショナル・アイデンティティの創出という理念と社会的機能に注目し、これがアンシァン・レジームから革命へとどのように継承されあるいは変質したかを解明し、フランス革命の理解に新たな視座を提供することを目的としたものである。本年度は「アンシァン・レジーム期の『ナショナル』」ものへの関心の生成」について研究を進めることを柱として、美術館計画に関わった主要人物たちの知的関心の分析を行なう計画を立てていた。 その中で、研究者がとくに注目したのは、美術館計画を行政の立場から推進した王室建造物局総監のダンジヴィレ伯爵、および、彼の右腕的な存在であった王付き首席画家で王立絵画彫刻アカデミー院長のピエールであり、彼らの蔵書や著作の傾向を知ることが一つの鍵となると考えた。このうちピエールについては、近年、充実した研究成果が発表されたため、史料へのアクセスも比較的容易であったが、ダンジヴィレについては、革命期に亡命していることもあり、蔵書目録・財産目録の存在が不明であったため、史料の発掘そのものに多くの時間を費やすこととなった。まずは彼の亡命先の足取りを辿るとともに、滞在国のひとつであるドイツ各地の文書館や図書館、美術館等での調査も行なったが、最終的にはフランスでそれらの史料を発見するに至った。従来の研究で言及されてこなかったこれらの史料の発見は、本年度最大の成果であるとともに、西洋史、美術史の双方にとって大きな財産となるはずである。 さらにルーヴル美術館をはじめとするフランス各地の美術館では、来年度以降の研究を見越して、ダンジヴィレとその周辺の亡命貴族、教会、王室等から没収されて国有化された美術作品についての調査に着手した。文書史料ばかりでなく実際の作品を観ることによって、革命期の美術館政策について、今後の繋がる新たなイメージが形成された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
まず、ダンジヴィレの亡命先の足取りを辿るにあたって唯一の資料が、デンマーク語で書かれた伝記であった。このため、デンマーク語の資料読解に協力いただける研究者を探し、資料を照合しながら事実関係を検討していく作業に予想以上の時間がかかった。 また、本年度は研究計画に従って二度の海外調査を組み込んだが、上記の通り、ダンジヴィレの蔵書目録・財産目録についての存在が従来の研究で明らかにされていなかったため、史料の発掘そのものが困難を極め、目当ての史料を発見したのは二度目の調査旅行時(2012年2-3月)であった。したがってこれに関しては、史料の収集は無事に達成されたものの、分析までは至らなかった。 以上が「やや遅れている」理由であるが、その他の点、すなわちアンシァン・レジーム期の美術館構想に関わった主要人物たちの知的関心と「ナショナル」なものへの意識、あるいは1793年8月10日にルーヴル宮に美術館が開館した時点での展示作品についての研究は、おおむね順調に進めることができたといえる。
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今後の研究の推進方策 |
まずは、昨年度末に発掘したダンジヴィレの蔵書目録・財産目録の精査と分析を進めていく。これらの史料は予想を超えた量であったため、相当の時間がかかると思われ、今年度中はコンスタントにこの作業を継続していく。 これと並行して、研究計画に従い、今年度は研究の射程を、従来のアンシァン・レジーム期から革命期へと移行していく。昨年度のうちに、革命期の美術館政策に関わる最も基本的な文献資料を入手しておいたので、まずはその読解を進めていく。その過程で、さらに必要となる文献資料等の収集を行なっていく。 また、昨年度より、革命期の財産没収によって国有化されて美術館に収蔵されるに至った作品の調査に着手しており、今年度もこれを継続していく。休業中にフランスを中心とする海外調査を組み込み、現地の美術館にて作品の実験調査を行なう。このために必要となる現地美術館のスタッフとは、昨年度よりコンタクトを取っており、効果的な連携を図っていきたい。さらに、これに関連した当時の文書史料については、昨年度の調査で所在を突き止めてあるので、今年度はそれらの調査に本格的に着手する。 昨年度および今年度の研究成果については、関連学会での報告を検討するとともに、適宜論文のかたちにまとめ、学術誌への投稿を試みたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度の研究費の主な使途としては、(1)海外調査、(2)文献・資史料の購入、(3)欧語投稿論文のネイディヴチェック、(4)その他、を考えている。 (1)の海外調査は、上記で示したフランスを中心とする美術館、図書館、文書館での作品および資料調査に関わるものである。現地スタッフとも連絡を取り、日程的に可能であれば、今年度中に二度の渡航を行ないたく、本年度の研究費の半分以上(40万円程度×2回)がここに充てられることになると思われる(20万円程度)。 (2)の文献・資史料の購入は、フランス革命期の美術行政や革命政府に関わる一次史料、および研究文献や論文、作品資料、その他関連する文献等の購入のことである。 (3)の欧語投稿論文のネイディヴチェックは、主として昨年度の研究成果を欧語論文にまとめ、海外の学術誌へ投稿することを検討しているため、その際に必要となるネイティヴチェックのための費用である(10万円程度)。 (4)その他は、各種資料の郵送費、地方で開催される国内学会への出張費、文具等の消耗品の購入費等として考えている(10万円程度)。
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