研究課題/領域番号 |
23720379
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
國木田 大 東京大学, 人文社会系研究科, 助教 (00549561)
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キーワード | 考古学 / 環日本海地域 / 土器付着物 / 炭素・窒素同位体分析 / 放射性炭素年代測定 |
研究概要 |
本研究は、環日本海地域をとりまく文化集団の食性変遷を土器付着炭化物の炭素・窒素同位体分析、C/N分析等を用いて解明するものである。研究課題として、(1)土器出現期の様相解明、(2)ロシア極東・沿海地方の文化集団の食性変異、(3)栽培植物の利用と海洋資源への特化の3つを設定している。平成25年度は、研究計画に沿って研究課題(2)(ロシア極東・沿海地方の文化集団の食性変異)の比較検討、研究課題(3)(栽培植物の利用と海洋資源への特化)の試料採取および分析を実施した。 研究課題(1)では、投稿論文が発行され、当該地域の土器出現の一つの要因が、淡水・海生魚類の利用と関係していた可能性を提示できた。 研究課題(2)では、北海道の八千代A、平和、下頃辺、吉野、大正3・7、共栄B、湧別市川I・II遺跡、サハリンのスラブナヤ4・5遺跡の分析を実施し、研究集会で報告した。同報告では、各土器型式の詳細な年代検討やサハリンとの関係を議論した。これまで、大陸-サハリン-北海道(環日本海地域)の年代的な議論は少なく、新しい知見を得ることができた。現状で、八千代A遺跡の暁式土器の炭素・窒素同位体が、他の土器型式と大きく異なっており、食性が異なっていた可能性が高い。周辺地域のロシア・沿海地方では、極東大学でボイスマン2遺跡の資料調査を実施し、分析を進めた。 研究課題(3)では、北海道常呂川河口遺跡の擦文土器について分析を実施した。現状で、同遺跡の擦文土器の炭素・窒素同位体は、オホーツク文化と大きな差がなく、海洋資源に特化していた可能性が高い。今後、分析事例を増やし研究を深化させる必要があるが、食性差の生じる背景は文化系統よりも、遺跡立地等の食料資源へのアクセスの方が重要であったのかもしれない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成25年度は、研究課題1(土器出現期の様相解明)に対して十分な成果を得ることができた。これらの成果については、放射性炭素国際学会誌(Radiocarbon)に論文投稿を行った(Vol.55, p1334-1340)。研究課題2(ロシア極東・沿海地方の文化集団の食性変異)に関しても、計画通り研究を進めることができている。ロシア・沿海地方では、極東大学において資料調査を実施し、ボイスマン2遺跡の分析を行った。北海道では、大正7遺跡、平和遺跡、下頃辺遺跡、共栄B遺跡、湧別市川I・II遺跡等の測定結果を研究集会で報告した(『環日本海北回廊における完新世初頭の様相解明-「石刃鏃文化」に関する新たな調査研究』、2014年2月)。研究課題3(栽培植物の利用と海洋資源への特化)においても計画通り、北海道北見市常呂川河口遺跡の擦文文化に関して分析を実施した。今後、同遺跡の分析結果を考慮して、新たな遺跡の追加検討を行う予定である。 また、平成26年度に実施予定であったロシア・サハリン資料に関しては、先行して調査研究を行った。2013年夏季に日露共同調査が実施されたスラブナヤ5遺跡の資料を中心に分析を実施した。平成25年度の研究達成度は順調であり、平成26年度の研究計画を遂行する上での組織体制も整っている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策は、平成23年度に設定した3つの方策に重点を置き進める予定である。(1)「研究実施の環境整備」、平成24年度からさらなる環境の充実を図るため、東京大学大学院工学系研究科の研究施設と協力体制を整えている。(2)「別プロジェクトとの連携」、平成25年度も、平成23年度から継続している日露共同発掘調査と連携することにより、既知資料以外の新規資料の開拓に成功している。引き続き、別プロジェクトと連携を図ることにより、研究対象資料の充実を目指す。(3)「研究ビジョンの明確化」、研究当初の計画通り、各年度の研究課題や対象地域を明確にし、研究を遂行する。平成26年度対象地域・対象文化は、北海道における縄文時代早期の石刃鏃文化や、擦文、オホーツク文化、ロシア・沿海地方の新石器文化である。3つの推進方策を順守することにより、明瞭な研究成果を得る。課題ごとに研究計画や成果を明確にし、学会発表や論文投稿につなげていく。
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