研究概要 |
1.最終年度の研究成果 アゼルバイジャンにおける最古級の農耕村落址であるギョイテペとテペ・ハッジ・エラムハンルの発掘(代表:西秋良宏、東京大学教授)に参加し、当地における農耕牧畜の発達やその社会的背景の研究に資する標本の採集に成功した。南コーカサスは、西アジアにおける農耕牧畜の中心地の1つと目される東アナトリアに地理的に近接し、先史農耕村落遺跡が数多く残されているにもかかわらず、これまで調査が進んでいなかった。これまで、当地最古の農耕文化とされるショム・シュラヴェリ文化期(前約6,000-5,000年)を代表する遺跡であるギョイテペの調査を続けてきたが、昨年度に発掘を開始したハッジ・エラムハンルのC14年代測定値はギョイテペよりも数百年古いという結果が得られた。その物質文化や生業活動の解明は、西アジアにおける農耕牧畜起源の新たな側面を明らかにする第一級の標本となりうる。昨年度は特に、狩猟具や穀物収穫具、穀物加工具として使用された石器の形態や製作技術の研究を進めた。 2.研究期間全体の研究成果 本研究は、西アジア先史農耕村落の社会史を考古学的に記述することを目的とし、その方法として日常の生産・消費活動の社会的コンテクストに関する考古記録の収集と分析を行った。この目的の下、環境や地理の異なる3地域(ヨルダン、シリア、アゼルバイジャン)における初期農耕村落(前約9,000-5,000年)の考古学調査から得られた石器や土壌を標本として研究を進めた。結果として、これらの地域に共通して、初期農耕村落では建築物とその周辺の活動痕跡として把握される世帯規模の社会集団が発達したことが確認された。また、世帯集団は農耕を基にした日常の生産・貯蔵・消費活動だけでなく、遠方からの黒曜石やそれを用いた専業的石器製作、そしてそれを支える技術伝承においても重要な役割を担っていたことを示す証拠を得た。
|