本研究は中国古代における都市・集落と鉄器生産・流通の相関関係を分析し、鉄の都市集落発展に対する歴史的意義を明らかにすることを目的とし、中国河南省を中心に製鉄遺跡・出土鉄器の調査・研究を進めるものである。初年度においては、河南省文物考古研究所所蔵の出土鉄器の調査と製鉄遺跡の調査を行い、漢代の農具等の鉄器だけでなく、各地で出土した製鉄関連資料(炉壁・ふいご・スラグ等)を確認し、同時に近年発見された大量の曹操高陵の出土鉄器や、その墓が位置していた漢代魏郡の製鉄遺跡が河北省武安県に存在することを確認した。よって、第二年目には三回の海外渡航を行い、曹操高陵出土鉄器の整理を進めると同時に、武安県の製鉄遺跡の踏査を進めた。この他初年度には中国社会科学院考古研究所の依頼により、洛陽漢墓群出土鉄器の整理を行い、次年度にはその報告書の作成を完了した。 また、当初の計画に従い、次年度の2012年6月に河南省文物考古研究所の劉海旺氏を招へいし、愛媛大学および東京(キャンパスイノベーションセンター)において、二回の研究講演会を実施した。これは、河南省に位置する内黄県三楊荘漢代集落遺跡の発見とその意義について報告するものであるが、ここでは漢代の農村集落が当時の生活の痕跡をそのまま残して沈んだもので、鉄製農具が大量に出土しており、集落と鉄器の流通の状況を知るための好例である。 同時に研究代表者自身も曹操高陵・三楊荘集落遺跡の出土鉄器とその生産・流通に関わる問題について2回の研究講演を行っている。 以上により、漢代の魏郡における鉄器生産と流通および都市・集落の関係性をより具体的なものとすることができ、また、中国古代における鉄器生産の社会的意義を知るためのモデルを提示することができた。
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