研究課題/領域番号 |
23720385
|
研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
小野 林太郎 東海大学, 海洋学部, 講師 (40462204)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | インドネシア / 北マルク諸島 / 海洋適応 / 資源利用 / 移住 / 海上交易 / 新石器時代 |
研究概要 |
今年度の研究成果としては、まず8月から9月にかけて、インドネシアのマルク諸島北部およびスラウェシ島北部を中心とした遺跡発掘調査を実施するにあたっての調査許可申請を進めるインドネシア国内での手続き、および発掘する遺跡を決定するための確認調査を行うことができた。具体的にはインドネシア側のカウンターパートとなる国立インドネシア考古学研究所と調査計画の詳細について検討したほか、外国人調査者とインドネシア側カウンターパート間での共同調査に関わる詳細を記述したMOUの締約を行い、インドネシア政府に提出した。最終的にこれらの諸手続きに費やした日数は約3週間であり、すべての手続きが終了した段階で、調査地の一つであるマルク諸島へ移動し、モロタイ島、ハルマヘラ島、およびカヨア島にて遺跡の踏査・確認調査を実施することができた。 されにこれらの諸手続き、および遺跡踏査を踏まえ、2012年の2月~3月にはマルク諸島北部に位置するモロタイ島での発掘調査を実施し、新石器時代後期と推定される洞窟遺跡を発見した。出土遺物は大量の人骨のほか、動物骨、魚骨、貝類、貝製品やインド産の可能性がある青ガラス製腕輪やビーズ類と多様である。これらのさらなる分析は来年度への継続となるが、炭素年代測定による遺跡年代の確定や、人骨を対象とした様々な分析、出土ガラス製品の産地同定などにより、モロタイ島への人類の移住や新石器時代以降における海洋適応の実態にアプローチできる可能性が極めて高く、当初に予定していた本年度の成果は十分に達成できたと考えている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず達成点の一つとして、インドネシア国内において遺跡発掘調査を実施するにあたって必要不可欠となる調査許可申請の手続き、および発掘する遺跡を決定するための確認調査を行うことができたことがあげられる。このうちインドネシアにおける調査許可および調査ビザ等の取得手続きはかなり複雑で、また長期に及ぶものであるが、8-9月の長期滞在で何とかこの手続きを終了できたことは、研究を遂行する上で重要なプロセス、成果であったと考えられる。 さらにこの調査では、実際にマルク諸島での遺跡踏査も僅かながら実施することができ、2012年2月から開始した発掘調査の成功へと結びついたと評価できる。また2月より開始したモロタイ島での発掘調査では、予想以上の多様な遺物が出土し、特に新石器時代にまでさかのぼる可能性のある人骨が大量に出土した点、多種に及ぶ海産貝類や魚骨、貝製品の出土は本研究の目的を達成する上でも重要な考古資料となることは間違いない。さらにガラス製品等の出土は予想外であったが、これによって新石器時代後期における海上交易や周辺世界との人の移動や流通にもアプローチできる可能性が出てきたことは大きな成果の一つであろう。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究は大きく二つの方向で進める必要がある。一つは初年度の発掘調査で出土した遺物となる大量の人骨のほか、動物骨、魚骨、貝類、貝製品やインド産の可能性がある青ガラス製腕輪やビーズ類のさらなる分析を実施し、マルク諸島における人類の移住や資源利用、海上交易の歴史を明らかにしていく研究を計画している。 二つ目には初年度と同じく、今後もインドネシアの北マルク諸島を中心に新たな遺跡の発見と発掘を継続し、さらなる考古学的資料の収集を目指す必要が指摘される。すでに確認されている遺跡群は多数あり、時間と予算の関係を見ながら、可能な限り新たな遺跡の発掘調査を実施・継続する計画である。基本的には各年度で1~2遺跡を発掘するのが限度となるが、出土した遺物群を多角的に分析し、その成果を学術誌や学会等にて積極的に公表していく計画である。
|
次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費の使用内訳としては、まずインドネシアにおける新たな発掘調査の実施、および前年度の調査で出土した遺物の分析にかかる外国旅費や滞在費があげられる。近年、インドネシアでは出土遺物を海外に持ち出すことは原則的に禁止されており、科学分析に必要なサンプル資料以外は、インドネシア国内にて分析を実施しなくてはならない。このため前年度の発掘調査で出土した遺物の多くも、インドネシアの研究機関に保管されており、分析を実施するにはインドネシアに滞在する必要がある。同じく発掘調査を実施するにもインドネシアに滞在する必要があるため、結果的には外国旅費への負担がもっとも多くなることが予想される。 いっぽう、前年度の発掘で出土した遺物のうち、炭化物等は炭素年代測定、ガラスは産地同定などの分析を行う必要があり、分析費用が発生することが予想されるため、研究費の一部はこれらの分析に使用される予定がある。また人骨や魚骨の分析に必要となる分析器具や、国内の研究機関に所蔵されている標本の参照などを目的とした消耗品の購入や国内旅費にも一部の利用を予定している。
|