本年度に実施した研究は、大きく二つに分けられる。ひとつは、昨年度に積み残した『長宗我部地検帳』にみえる土器生産関連史料の検討を継続し、その結果得られたデータを整理・分析して中世末期の土佐国における土器生産の諸問題を考察する課題である。もうひとつは、考古学的な事例検討として、特定の地域における土器様相を整理し、分析していく作業である。 前者については、上半期中に史料の収集が完了し、関連史料をデータベース化したうえで、土器工人の居住(分布)状況や、かれらが保有する田畑・屋敷地の場所の特定、権利を所有する土地の規模などを分析した。その結果、土器工人が、土佐の平野部を居住地とし、郡単位で生産活動をおこなっていたこと、また、所有する田畑を自作する半農半工の生活をおこなっていた工人が存在する一方で、都市に居住し、所有する田畑の耕作をすべて他人に請け負わせる専業化した工人もまた存在していたことが明らかになった。加えて、土佐地域においては神社の保有する田地に土器工人が関わる事例がしばしばみられることから、神社に従属したあり方が考えられると推論することができた。 後者については、前者の検討結果をふまえるならば土佐地域における土器様相の検討が最適であったのだが、現状では詳細な分析に耐えるだけの考古資料の蓄積が決して十分とはいえなかったため、他地域をとりあげて土器生産の問題を考古学的に検討することとした。本年度は、中世の但馬地域を対象とし、宮内堀脇遺跡、野市遺跡など、近年発掘された遺物群を実見し、実測・写真撮影などの資料化作業をおこなって土器様相の検討をおこなった。
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