研究課題/領域番号 |
23720391
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研究機関 | 北海道開拓記念館 |
研究代表者 |
添田 雄二 北海道開拓記念館, 学芸部, 学芸員 (40300842)
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キーワード | 小氷期 / アイヌ民族 / 伊達市 |
研究概要 |
寒冷のピークである17世紀に限定することができる遺物を含む伊達市カムイタプコプ下遺跡の発掘調査を実施し、合わせて周辺の地質調査や自然科学的手法による古環境解析も行った。結果、以下のことが明らかとなった。(1)1640年の駒ヶ岳噴火による津波が有珠に到達したことは、有珠善光寺関連の古文書に記載がある。これまで有珠地区では当該津波堆積物が確認されているが、真の意味で古文書の記載を裏付けるには、善光寺(現在の地蔵堂)付近において津波堆積物を確認する必要がある。今回、地蔵堂付近において地質調査を実施した結果、当該津波堆積物をはじめて確認することができた。(2)遺跡の炉から検出された炭化アワおよび材についてAMS炭素年代測定を実施した結果、チセは15世紀後半のものであることが明らかとなり、16世紀まで使用されていた可能性もあることが判明した。(3)発掘調査の結果、直線状に並ぶ柱穴を検出することができた。これはチセの壁の一部に対応すると考えられる。また、1640年駒ケ岳噴火津波堆積物直下にて、灰層が検出された。灰層には焼土層がなく、山状であることから、別地点から持ち込まれた灰と考えられる。(4)昨年発見された貝塚は、包含されていた炭化材の年代測定結果と津波堆積物との層位関係から、1500年代後半~1640年の間に形成されたことが判明した。魚類と哺乳類の遺存体からは、貝塚が全季節を通じて形成されたものと推定された。(5)貝塚から得られたアサリの成長様式について微細成長縞を用いて高時間分解能で検討した結果、遺跡出土アサリは現生アサリに比べて年間成長速度や性成熟到達年齢が遅い傾向がみられ、さらに現在より低海水温環境に生息していた可能性が判明した。また、遺跡出土アサリは5月末以降の夏季に採取されたことが明らかとなった。以上の成果については、関連学会および当館印刷物において速報として公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、昨年度の発掘実績をふまえて伊達市カムイタプコプ下遺跡を発掘することができた。さらに、各分析結果から、遺構や遺物の年代が明らかとなり、およそ15世紀後半から17世紀半ばまでの有珠地区におけるアイヌ民族の生活が明らかにされてきていると同時に、自然災害も含めた当時の古環境が復元されてきている。これらについては関連学会で速報として公表することができた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの発掘調査で得られた成果や各種分析データをふまえつつ、より効果的に研究目的を達成できるように次年度の発掘エリアや分析する試料を慎重に選択し、最終年度のまとめを視野に入れて研究を進める。伊達市カムイタプコプ下遺跡の発掘は9月に行う予定である。また、新たな発掘成果や各分析結果は速報として関連学会や当館印刷物で公表する。
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次年度の研究費の使用計画 |
最終年度にあたるため、基本的には伊達市有珠地区における遺跡の発掘調査と年代測定等の各種分析に費用をあてる。また、効果的に発掘成果を得られるよう、現地での発掘作業員の数を増やし、夏以降は月4回程度の室内作業員(分析補助)も雇う(アルバイト費)。これらの成果を公表するため関連学会で発表する(旅費)。
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