研究概要 |
本研究では、更新世末から完新世初期における社会の複雑化の過程を考察するために、日本列島中央部地域を対象として、人類の資源開発行動に関するモデルを構築する。本研究の特色は当時の主要な資源の一つである黒耀石に着目し、原産地の開発の様相と消費地での分布状況とを総合的に理解するための枠組みを構築できる点にある。研究の方法はA.原産地での開発の状況、B.消費地での利用の状況、C.黒耀石の獲得者の特定という3つのサブテーマの知見を総合することで、原産地開発者の行動領域と運搬ルート、各地域間を結ぶ人的な結合関係のパターンを抽出し、これらを形成した社会的な動機と技術的な系譜について、時系列に沿って歴史的な評価を与える。 最終年度である今年度は、引き続き東京国立博物館所蔵の諏訪湖底曽根遺跡採集石器全点(110点)の基礎研究を実施した(サブテーマB-a.)。具体的には56点の黒耀石製石器全点について、蛍光X線分析装置(EDXRF)を利用して元素組成の測定をおこない、昨年度に作成した原石データと比較して産地推定をおこなった。また図化作業についてもほぼ完了し、基礎研究の目標を達成することができた。サブテーマB-b.では、長野県内周辺遺跡(寺畑遺跡等)の資料調査を実施し、周辺地域での資料調査を完了した。 サブテーマA.では、長野県下諏訪町所在の和田峠西原産地を踏査し、原石268点を採取して分布地点を地形図に記録した。採取原石の法量計測と原礫面の分類、写真撮影、図化を実施し、自然状態での採取可能な原石形状と産出場所・状況の詳細を把握することができ、すべての計画を完了することができた。 最後に、サブテーマC.において上記したA.とB-a,b.の知見を総合することで、原産地開発者集団を抽出し、黒耀石の獲得方法、行動領域と運搬ルート、産地別の行動パターン、各地域間を結ぶ人的な結合関係の変遷過程を検討した。
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