研究課題/領域番号 |
23720393
|
研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所 |
研究代表者 |
安倍 雅史 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 文化遺産国際協力センター, 特別研究員 (50583308)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
キーワード | イラン / 南ザグロス / マルヴ・ダシュト盆地 / ファールス |
研究概要 |
今年度は、12月から1月にかけてイランに渡航、テヘラン大学に所蔵されているラハマタバード遺跡出土の石器資料を中心に分析を実施した。 ラハマタバード遺跡は、南ザグロスのマルヴ・ダシュト盆地の北西カミン盆地に位置する小型の遺丘であり、2009年、2011年にテヘラン大学の大学院生ホセイン・アジジ氏が中心となって発掘を行なった遺跡である。バクーン文化(銅石器時代)層、ムシュキ文化(土器新石器時代)層(6350calBC-6050calBC)、先土器新石器時代(7000calBC)の層が確認された。とくに先土器新石器時代の文化層がマルヴ・ダシュト盆地周辺で確認されたのは、はじめてのことであり、この地域における新石器化が、さらに遡ることが明らかになった点でこの遺跡は注目を集めている。 しかし、石器分析の結果、南ザグロスでは、石器製作の画期は、むしろムシュキ文化期(土器新石器時代前半)とジャリ文化期(土器新石器時代後半)の移行期にあったことが判明した。ザグロス山脈に続旧石器時代以来、数千年に渡って連綿と続いていた「細石刃・細石器」伝統が、ムシュキ文化期からジャリ文化期の移行期に終焉したことが明らかとなった。 これは、ジャリ文化期に大きく生業形態が変化することと関連していると現在考えている。南ザグロスのマルヴ・ダシュト盆地では、恐らくヤギ飼育と野生獣狩猟を主体とする南ザグロス型の新石器経済がムシュキ文化期まで継続していたが、ジャリ文化期になると西方からヒツジが導入されたことによって、「肥沃な三日月孤の西翼型」の本格的な農耕・牧畜経済に移行する、この結果、狩猟具の製作を目的にした「細石刃・細石器」伝統が終焉したのではないかと推定している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
この研究の目的は、いままで研究の空白地域であったザグロス地域における新石器化の具体的な様相を明らかにすることである。今年度、ラハマタバード遺跡出土の考古資料とくに石器資料を中心に分析を行なった結果、ザグロス地域の新石器化に関して、以下のような、大まかな見通しを得ることができた。この点において、研究は順調に進展していると言える。 まず、(1)ザグロス地域でも「肥沃な三日月孤の西翼」と同様、独自に農耕・牧畜が起源した可能性が高い。(2)しかし、ザグロス型の新石器経済は、「肥沃な三日月孤の西翼」のものとは大きく異なり、ヤギ飼育と狩猟に重点を置いたものであった。(3)また、その物質文化も、ザグロス地域の続旧石器文化の伝統を強く引き継いだものであった。(4)しかし、ジャリ文化期(土器新石器時代後半)に、ヒツジとともに「肥沃な三日月孤の西翼」型の本格的な農耕・牧畜経済がこの地域にも波及し、(5)経済や物質文化の面で、大きく変容した可能性がある。(6)つまり、ザグロスの新石器化は、「ザグロス独自の新石器化」と「肥沃な三日月孤西翼型の新石器経済の導入」の2段階がある。 このような見通しを得られたことは、学術的にも非常に意義のあることだと自負している。今後は、今年度の研究成果から構築されたこの仮説をさらに、資料を増やし検証、補強していきたい。
|
今後の研究の推進方策 |
平成24年度には、さらに資料数を増やし、分析を進める予定である。具体的には、東京大学総合研究博物館に保管されている、(1)タル・イ・ムシュキ遺跡(ムシュキ文化期、土器新石器時代前半)の出土資料、(2)ジャリB遺跡(ジャリ文化期、土器新石器時代後半)の出土資料、また、イラン、テヘラン大学に保管されている新資料(3)カッスル・アハマド遺跡(先土器新石器時代)の出土資料を分析する予定である。 これらの出土資料の分析を通じ、上記の仮説の妥当性を検証、また仮説の補強を試みたい。 東京大学総合研究博物館内で分析を進めると同時に、一度、数週間程度、イランに渡航し、テヘラン大学に保管されている資料の分析を行ないたいと考えている。 また、この研究は、二カ年の研究のため、平成24年度中にある程度の成果を論文にまとめ、出版していきたい。
|
次年度の研究費の使用計画 |
次年度には、海外で開催される西アジア考古学系の学会に参加し、研究成果を発表したいと考えている。また、イランの現地調査に3週間でかけ、カッスル・アハマド遺跡出土資料の分析を行ないたいと考えている。このため、必要となる旅費、滞在費、車両レンタル代などを申請した。次年度は、イランの現地調査、海外での学会発表が重なったため、旅費が経費の多くを占めている。
|